AI搭載次世代DAC検査装置を豊洲工場に導入
デュアルマスター機能を評価。検査回路も4回路から6回路に拡大
佐野工場長は、従来の「Trinity」と「Prenity」の最大の違いとして、マスター画像がデュアル化された点が最も大きな進化だと指摘する。従来は単一のマスター画像を基にして検査が行われていたが、紙ゴミ(夾雑物)が誤って不良品と検出されることがあった。その点、「Prenity」では、マスター画像を2枚使用するデュアルマスター機能が搭載されているため、紙ゴミなどの不純物は検出されず、実際の印刷不良のみが正確に検出されるようになっている。
さらに、「Prenity」の検査回路は、従来の4回路から6回路に拡大している。これにより検査の幅が広がり、欠陥検出の精度も大幅な向上が可能になった。同社では「重欠陥」「軽欠陥」「微小欠陥」「薄汚れ欠陥」など、さまざまな欠陥に対応する検査回路を活用しており、とくに面積回路を用いた欠陥検出においては非常に高い精度を発揮しているようだ。

「例えるならゲームのテトリスのようにpixelがつながっていれば、スジ状の不良でも柔軟に対応する回路を『重欠陥』と『軽欠陥』に載せている。その欠陥をベースとして4回路使用していた。残りの2つの回路は、『面積回路』ではない素の重欠陥、軽欠陥という正方形のpixel数でヒットさせる回路にしている。この回路は千葉第一工場において使用している」(佐野工場長)
AI Gallery機能の「教師データ」で検査精度向上へ
さらに、豊洲工場に導入した「Prenity」には、AIを活用した「AI Gallery機能」が搭載されている。この機能の特徴は、AIが事前に学習した「教師データ」を基に、欠陥を自動で分類できる点にある。
豊洲工場 品証課の安間脩人課長は、「今回、Prenityに合わせてカメラを2Kから4Kに更新したことで、従来よりも細かい検査が可能になったが、さらに、AI Galleryの機能によって分類精度も向上している」と説明し、今後の検査品質の大幅な向上に期待する。
DACはオフセット印刷業界、ラベル業界、グラビア印刷業界など各業界に対応した「教師データ」のセットを提供しており、セントラルプロフィックスでは、そのデータセットを活用してAIを学習させることで、欠陥検出の精度をさらに向上させていく考えだ。
安間課長は「AIが的確に欠陥を分類することで、オペレーターの不良判定に関する迷いが減り、検査時間の短縮にもつながっていく」と今後の期待できる効果を強調している。
「オンラインMERCY機能」により、自動化が加速
さらに、今回のPrenity導入で注目されるのが、検査装置にオプション搭載された「オンラインMERCY機能」である。従来、刷り出し時の検版は目視に頼っていたが、今回のオンラインMERCY機能により、検査装置のカメラ画像を基に印刷用デジタルデータとの照合が行われるため、元データとの整合性確認が可能になった。これにより、検版の省力化が実現しオペレーターの負担も軽減されている。
特に、豊洲工場では化粧品のプロモーションポスターや有名ブランドの商品カタログといった高い精度が求められる案件が多く、こうした案件においては、紙面上のわずかな不純物や欠陥がクライアントにとって大きな問題となる。佐野工場長は、「AI Gallery機能とデュアルマスター機能の組み合わせによって、高品質な印刷物を迅速に提供できる」と述べ、特にクライアントからの厳しい要求に応えるための重要な技術であることを強調した。
「エリア指定機能」の開発をDACに依頼。「顔識別」の機能も
また現在、同社からDACに依頼している機能に「エリア指定機能」というものがある。これは検査した紙面を複数の任意のエリアに細分化し、このエリアのゴミは重点的に表示して欲しいというものを選択できるもの。さらに、「顔識別機能」という機能も追加したという。
「例えば、化粧品のポスターなどでモデルの顔に印刷不良があった場合、顔識別機能を使用すると、顔だけのエリアを自動検出し、不良があれば重点的に表示してくれる。まずそこをチェックして、問題があればその印刷物は排除するという指示がAI Galleryから行うことができる。その他の場所についても、任意の場所を囲ってしまえば、そこだけを検査できる。今までは全面見なければならなかったのが、もう少し奥深く、『まずは、ここから』といった優先順位をつけて検査を行うことが可能になる」(安間課長)
10月中には完成して設置する予定になっているようだ。
AIと人との協力で、スキルレスで高精度な生産環境構築へ
セントラルプロフィックスでは、将来的にAI技術を活用して、スキルレスな生産・検査環境の構築を目指している。佐野工場長は、「AIが本格的に導入されることで、経験値の浅い社員や例えばパートタイマーでも、熟練オペレーターと同等の不良品抜取り作業を行える環境が整う」と期待を寄せている。AI技術による検査自動化が進めば、印刷業界全体で抱える人手不足の問題も大幅に解消される可能性があるという。
ただし、佐野工場長はAIが全ての問題を解決するわけではないとも述べる。「最終的な品質判断は、依然として経験豊富なオペレーターによる確認が不可欠であり、AIと人との協力体制が今後の生産効率向上には重要だ」と強調した。
AIによる欠陥検出が進んでも、最終的な判断は人が行うことで、さらに精度の高い生産体制が築かれると考えているという。
印刷物の品質向上を実現した今、今度は「会社の品質向上」へ
安間課長は「AIにより、オペレータースキルの平準化と、AIで基準を定めることで『悩む時間』も削減できるため、残業時間の削減にもつながり、作業の効率化というところにも大きな力を発揮すると思う」と期待する。
これまで、製版会社から総合印刷会社への変革を目指してがむしゃらに突っ走ってきたという同社。そして現在、クライアントから「高品質な印刷物を提供してくれる印刷会社」という信頼を得た今、今後はよりシステムを最大有効活用した「品質向上」を目指していきたいという。佐野工場長は「会社としてのクオリティ、コンプライアンス、セキュリティをより一層高め、盤石な体制の総合印刷会社を目指していきたい。それに付随するかたちで、次世代のMISを独自に開発中であり、来年には運用開始の予定である。これにより無駄な部分をより一層なくし、さらに高効率な会社に進化していく」と話す。
AI搭載検査装置の活用により、数年後の同社はどのような変革を遂げているのか。今後の動向に注目したい。
