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「製本DX」で「売れる本」を[ミューラー・マルティニジャパン 五反田隆社長に聞く]

デジタル生産で販売機会損失を防ぐ〜分業の壁による技術分断が課題

 「出版業界は販売機会を失っている」と指摘するミューラー・マルティニジャパン(株)の五反田隆社長。印刷物の小ロット化が進む中で、書籍の需要と供給のミスマッチによる販売機会の損失を解決し、「売れる本」を世に送り出すために、「デジタル生産」の必要性を強調している。今回は、「印刷物の生産工程において、最も『DX』で効果を弾き出せるのは製本工程である」と語る五反田社長に、その市場背景や「製本DX」の有用性などの視点から見解を語ってもらった。


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五反田 社長

「デジタル生産=少部数」ではない

 製本業界における設備投資意欲は、残念ながら現段階ではまだ戻ってきていない。もちろん、忙しい製本会社もあるわけだが、人手不足の状態にある会社でも外国人労働者、いわゆる人海戦術でその場を凌ぐケースが多々見られる。結果として国内の製本後加工機は2000年より前に導入されたものが圧倒的に多くなっている。

 このような状況の中で、「製本DX」と言われるようなイノベーションは起きにくい。日本の印刷製本市場のボリュームは、中国、アメリカに次いで第3位。にもかかわらずDXの先行事例は欧米に比べて非常に少ない。日本の製本業界においてDXは、まだ「馴染みがない」というところだろうか。これに関しては、我々製本機械メーカーがDXへの投資の先にあるメリットや効果を明確に提示できていないという反省もある。ただ、コロナ禍を経て、我々のサービス部門は動き出している。ある程度仕事が戻り、機械が稼働しているということだろう。

 しかし、「DX」のメリットや効果は、印刷工程よりも製本工程の方が大きいと考えている。製本工程をデジタル生産に置き換えるという「DX」を推進した場合、人手がかかる工程ゆえに人員削減の効果は大きい。あるフランスの会社では、省人化を理由に数万部単位の仕事をデジタル生産している。印刷の調整が不要で、ブックブロックの作成および表紙とのマッチングも自動でやってくれるデジタル生産は、決して「=少部数」ではない。

 さらに、工場での生産で欠陥製品を皆無にしようという「ゼロディフェクト」の考え方にもとづいて「品質改善」が期待できる。残念ながら人は間違える。そこをデジタル技術に委ねて機械に管理させることで、合理的に品質を担保でき、過剰な品質検査装置への投資も不要になる。

 そして、最大の効果は受注レンジを拡大できることだ。例えば、出版社側から見ると、これまで諦めていた小部数のタイトルの出版、あるいは重版が可能になることで受注拡大に繋がる。

 また、ローカルでの分業が可能になり、設備がコンパクトになることで物流拠点とのコラボレーションも可能になるだろう。

 さらに、製本側からのカスタマイズが容易になることも期待できる。例えば、「A4よりも少し小さい本が欲しい」となると、当社独自の単独駆動(モーションコントロール)技術を採用したインフィニトリム三方断裁機ならば、同じ印刷物でも少しサイズの異なる本を作ることも容易である。


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ミューラー・マルティニのスマートビジネスソリューション

「売れる本」と「販売機会」

 先日、村上春樹の6年ぶりの新刊を近くの書店に買いに行ったところ売り切れだった。これでは購買意欲も減退し、「あったら買おう」という人の購入機会も失われる。一方で、もっと大きな書店には大量に平積みされている。この需要と供給のミスマッチが書籍の販売機会、あるいは購入機会を奪っている。インターネットのアマゾンでは、2日以内に届けることで、購入率が高まるというデータもある。これら販売・購入機会の消失を補う上で、デジタル生産が有効である。

 アメリカの書籍に関する統計では、トータルの生産量は減っているものの、売れている本の冊数と売り上げは増加している。どういうことかと言うと、例えばトータル1万部を2,000部×5回に分けることで、少部数のタイトルや重版という「売れる本」を増やすることで、結果的に在庫が減少しているということ。この生産は従来のアナログ生産では限界があり、それを補うのがデジタル生産である。アメリカでは書籍販売の7割がオンラインで、そのほとんどがデジタル印刷製本されている。

 日本では、デジタル生産の「品質」が大きな壁になっている。しかし、「欲しい時に欲しいもの」に対して読者や購入者が求めているのは、そこではない。「早く読みたい」という一番の欲求を満たせないと販売機会を失うことになる。

DXをベースとした印刷との連携を

 2つ目の問題が、印刷と製本工程の連携が取れていないこと。製本が後工程ゆえにどうしても受け身になりやすい。

 例えば、ジョブ情報を持つ当社特許バーコード「ASIRコード」を印刷物に入れると、格段に操作性が向上し、生産性が上がる。しかし、印刷側にメリットがなければ、なかなか受け入れてもらえない。結果、従来のようなカメラで検査している。ここに分業の壁があり、技術が分断されてしまっている。DXをベースとした印刷との連携にもこのような障壁がある。

 今後、印刷物がさらに小ロット、極小ロットへと移行するなか、トータルの生産量自体は落としてはいけない。これは従来のアナログ生産における準備時間短縮では限界がある。デジタルならば極端な話、準備時間ゼロで多くのタイトルを生産できる。例えば、1日に2つのタイトルを2万部ずつ、計4万部生産していたものを、ロットが減少する中で、1日8タイトルを5,000部、計4万部生産できる体制が必要になってくるということ。そうなると当然デジタル生産が必要になる。

 また、アナログで1〜2部の書籍をゼロから作るのは非常に高価となり現実的ではない。しかし、デジタルなら50部と100部のジョブの間で1部違う本を作るのは、そう難しくない。無線綴じ機のアレグロや前述のインフィニトリムでは、幅6ミリまでなら機械がその1冊に対して追従し、セット替えを自動で行い、生産スピードを落とさずにたった1冊の本を作ることも可能である。


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Softcover production cell SigmaLine Compact + Antaro Digital

 印刷物の小ロット化が進む中で「DX」、ここで言う「デジタル生産」は欠かせない。そこで最もメリットや効果を弾き出せるのが製本工程である。「売れる本」を世に送り出し、販売機会を失わないための小ロット生産に対して、製本工程は大きく貢献できるはずである。

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