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サクラグループ、オフセット/デジタル共存運用〜枚葉機に余力、内製化推進

[最適生産ソリューション採用事例]現場の意識改革、部門間の協力体制強化

現場の意識改革を促すことで、デジタル移行をスムーズに

 ところで、サクラグループでは前述の通り、サクラアルカスが主にデザイン・制作・営業を、サクラホールディングスが刷版以降の製造工程を担っており、印刷設備に関してもデジタル印刷機はサクラアルカスの制作部門、オフセット印刷機はサクラホールディングスの製造部門がそれぞれ所有している。そのため単純にオフセット印刷からデジタル印刷への移行を進めるだけでは、製造部門(サクラホールディングス)の仕事量が減り、売上も下がってしまうことになる。この点について小鹿専務はこう説明する。

 「枚葉機の担当者は定年に近い年齢のため、今後雇用契約を継続していくにはこれまでよりも作業負荷を減らし、残業も極力なくしていくことが必要だった。つまり、小ロットジョブをデジタル印刷に移行することは、より働きやすい環境になるという意味で目的にかなっているわけだ。また、枚葉機に余力が生まれれば、これまで外注に出していたロットの大きい仕事を内製化するできるため、デジタルへの移行を進めても枚葉機の仕事がなくなることはないし、足の長いジョブが集まることで付帯作業の軽減が図れる」

 加えて、現場の意識改革も促すことでデジタル移行をスムーズに進めたという。

 「当グループでは部門採算性をとっているため、製造部門では自分たちの売上だけを考えると『仕事をデジタル印刷に渡したくない』という意識が働いてしまう。そこで、現場には枚葉機に余力が生まれることで内製化率の向上につながること、平均ロットが大きくなることで回転数を上げられること、各部門の評価指標として『売上』だけでなく『回転数』も重視することなどを説明し、最終的に会社としてのメリットにつながるということを理解してもらった」(小鹿専務)

 さらに、サクラグループでは、最適な設備運用を実現するために生産管理のあり方も見直した。

 「今年に入ってから、ジョブの振り分けをすべて生産管理部門で一元的に行うことにした。それまでは、受注時に営業がお客さまとの間で印刷方法を決めてしまうことが多く、現場もそれに従って流していたが、そのやり方ではコストや効率の面で必ずしも最適とは言えないケースも出てくる。そのため、生産管理部門の『統制』を強化することで、ジョブをより適切に振り分ける体制に改めた」(鈴木課長)

 こうして、ハードだけでなく、人の意識や社内体制などのソフト面でも、オフセット印刷機・デジタル印刷機を柔軟に共存運用できる環境をつくり上げていった。

枚葉機の余力を活かし、中〜大ロットの仕事を内製化

 オフセット/デジタルの共存運用により、現在、小ロットジョブの多くはデジタル印刷に移行している。基本的に、各ジョブのコストと納期やサイズ、紙種などの条件を加味して生産管理部門が振り分けを判断しており、概ね2,000通し前後が分岐点になっているが、場合によっては、3,000通しのジョブでもIridesseで出力するケースがある。

「3,000通しというと、システム上のコスト計算ではオフセットの方が安くなるため、以前なら間違いなく枚葉機で印刷していたと思う。しかし、トータルの運用原価で見ると、デジタル印刷の方が安く抑えられるケースもあることがわかった」(鈴木課長)

 インキやトナーなどの材料費だけでなく、印刷の前後工程も含め、人や時間などの要素まで加味して原価を算出することで、実質的な経営コストに基づいた「最適な振り分け」が可能になっているのだ。

 一方、デジタル印刷への移行が進んだことにより、枚葉機においては稼働に余裕が生まれ、狙い通り中〜大ロットジョブの内製化が実現している。しかも、印刷だけでなく後加工の内製化にも寄与している。

 「枚葉機のオペレータは、折りや断裁も兼務しているため、印刷の作業に余裕ができると、その分、後加工に充てる時間を増やすことができる。加工設備の更新も併せて行い、いままで外注に出していた全判のジョブの後加工も内製化した。社内でこなせる仕事の幅が広がっている」(鈴木課長)

 デジタル印刷機の運用体制も大きく変わった。従来、専任者がひとりで担当していたオペレーションを、現在はプリプレスのスタッフも含めて5名ほどで分担している。

 「属人化の解消に向けた第一歩が踏み出せたと感じている。『皆でやろう』という意識が高まり、部門を超えた協力体制ができつつある。また、複数名がオペレーションを担当することで、若いオペレータの教育に時間を割くことも可能になり、人を育てる環境も徐々に整ってきた」(大西氏)

 そして、小鹿専務が最適化の効果として最も実感しているのが意識面の変化だ。

 「ジョブ分析やシミュレーションの結果を社内で共有したことによって、『設備や時間の余力を生み、その余力を他の作業に充てる』という考え方が定着してきたと感じる。枚葉機の仕事をデジタル機に回したことで、『売上が減る』ではなく、『空いた時間を何に使い、何を生み出すか』という発想ができるようになった。こうした意識改革があったからこそ、生産改革がスムーズに進められたのではないかと思う。また、オフセットとデジタルの使い分けについても、『各ジョブを経営コストの観点で見たときにどちらが最適か』という考え方ができるようになってきた。それぞれの部門が、自分たちの売上だけでなく『会社全体の効率化』に向かって取り組むという意識にシフトできたことは、非常に大きな成果である」(小鹿専務)

この生産基盤を活かして、紙の価値を高めていく

 今後は、この生産改革の成果を如何にしてサクラグループとしての成長戦略につなげていくかが課題だ。その方向性について、大西氏は「本業である『紙の印刷』をいままで以上に大事にしていく」と力を込める。

 「約1年前、50期を迎えたのを機に『デジタルシフト』をテーマに掲げてさまざまな取り組みを始めたが、その中で気づいたのは、やはり印刷物には他に代えがたい価値があるということ。もちろん、デジタルの方向にも領域を拡げていくが、紙の印刷ももっと盛り上げていきたい。そのための具体策について、いま、私たち制作部門と製造部門、さらには営業部門も巻き込んで議論を重ねているところ」

 鈴木課長も、「デジタルシフトに取り組んだことで、『印刷』の重要性にあらためて気づいた」と語り、こう続ける。

 「紙媒体の需要は下り坂というのが業界の共通認識だが、その常識を覆すために何ができるか、皆で意見を出し合っている。今回の最適化の取り組みで、印刷物の生産環境はかなり強化できた。この基盤をどう活かし、どんな価値を創り出していくかが、これからの会社の成長のカギになると考えている」

 紙を大事にしながらデジタル分野にも領域を拡げていく。まさに、紙とデジタルの両メディアに自在に対応できるサクラグループならではの強みを活かした戦略だ。今後、さまざまなビジネスアイデアを具現化していく過程では、生産改革の中で醸成された「部門を超えた協力体制」が、遺憾無く発揮されるに違いない。

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