[トップインタビュー]ハイブリッド環境で「生産基盤強化」へ
印刷は「底堅い産業」〜顧客とのリレーションに強み
FFGS代表取締役社長 山田周一郎氏に聞く
「印刷の新しい領域に挑み続ける。」─今年6月の役員人事で富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ(株)(以下「FFGS」)の代表取締役社長に就任した山田周一郎氏。32年間の富士フイルム人生のうち、25年間、印刷の世界に身を置き、カラーマネージメントのコンサルタントサービス事業の立ち上げやプロダクトマーケティングに従事。その経験を活かし、FFGSの新たな舵取り役として組織を統率する山田社長にインタビューし、改めて具体的な事業の展開や方向性などについて聞いた。

─新社長に就任されてからおよそ3ヵ月半。まず、現在の心境をお聞かせ下さい。
山田 「企業のトップ」としての重責を感じつつも、正直、この3ヵ月半は、我々の最も大切なお客様へのご挨拶を最優先に、全国行脚の目まぐるしい毎日で、あっという間の3ヵ月半だったというのが実感です。まだまだご挨拶できていないお客様もいるので、この日々はもう少し続くと思います。
一方、社内については、私自身が久しぶりにFFGSへ戻ってきたということもあり、現在の組織や事業経営を俯瞰で捉え、課題などを探っている状況。また、富士フイルムビジネスイノベーション(株)(富士フイルムBI)をはじめとした富士フイルムグループ内での横の連携についても、改めて進め方を詰めているところです。
このように「お客様」「事業経営」「グループ連携」といった対応を並行して進めていく過程で、課題の本質を見極め、「やるべきこと」を徐々に積み上げていくことになります。これらを「代表取締役社長」という立場で実行していく上で、責任の重さを痛感しているところです。
─「久しぶりにFFGSへ戻った」ということですが、山田社長のこれまでの経歴についてお聞かせ下さい。
山田 1990年に関西学院大学経済学部を卒業後、同年4月に富士写真フイルム(株)に入社。当事、国内の印刷事業を担っていた印刷システム部に配属され、そこではメーカーとしての立ち位置で大手印刷会社様に販売活動を行っていました。
そして2003年にFFGSへ出向。新規ビジネスとしてカラーマネージメントのコンサルタントサービス事業を立ち上げました。とくにCMSは発注者側の理解が必要なこともあり、販売営業出身だった私は、発注元企業への飛び込み営業を行い、発注元企業ブランドの標準印刷色基準の策定を提案、そこに印刷会社様の協力を仰ぎ、三方が連携するという流れを作りました。また、出版会社の写真関連部署にも出入りし、「印刷会社とどのような色のコミュニケーションをすれば良いのか」という課題に対し、その環境整備や啓発を行った経験もあります。その後、2006年にはグラフィックシステム事業部マネージャーに就任。ワールドワイド向けのプロダクトマーケティングをおよそ2年間手掛けました。
一方、2008年からは中国の富士星光印刷機材(上海)有限公司に出向。当時は国営企業との合弁だったことから、独立資本化に向けて交渉役も担いました。
2013年に日本へ戻り、富士フイルムのメディカルシステム事業部マネージャーに就任。印刷以外の事業に籍を置くのはこれがはじめてで、ここではIVD(In Vitro Diagnostics Div.体外診断薬)システムをワールドワイドに展開し、2016年にメディカルシステム事業部統括マネージャー、2020年にはグラフィックコミュニケーション事業部統括マネージャー、そして今年4月にFFGSへ戻り、執行役員取締役会室室長に就任。6月に代表取締役社長に就任したというのがこれまでの経歴です。
振り返ってみれば、32年間の富士フイルム人生のうち、25年間、印刷の世界に身を置いてきました。まさにここが「ホームタウン」だと思っています。
─山田社長ご自身、日本の印刷産業の現状や課題をどのように捉えていますか。
山田 直近の7年間はメディカル事業に携わり、その前が中国だったことから、「肌身で感じる日本の印刷産業」となると12〜13年のブランクがあります。印刷産業の現状を一言で表すなら「成熟した」ということでしょう。情報のデジタル化やデジタルデバイスの台頭により、情報メディアとしての印刷媒体の価値は変化しました。もちろん、これは日本だけの話ではありません。
ただ、コロナ禍によってライフスタイルが変化し、書籍に代表される紙媒体の価値が見直される傾向にあるほか、巣ごもり需要によってパッケージ、とくに食品の軟包装などは国内外で堅調に推移しています。印刷産業が工夫、努力し、それが報われる現実を目の当たりにし、改めて「底堅い産業」だと感じています。
課題を挙げるとするならば、コストの定量化と見える化の必要性があると考えます。入口から出口までの利益構造を見直すということです。産業形態的に見えにくい部分でもありますが、そこで生産方法を含めた「見える化」を提案するのが、我々の本質的な仕事であり、最も貢献できる部分だと考えています。
─企業の舵取り役としてどのような「色」を出していこうと思われますか。
山田 私自身の「色」ということではなく、自分が考えて腑に落ちたことは、着実に実行していくということでしょう。企業は「変わらなければならない」が「変えること」が目的ではありません。当社には長年培ってきた顧客とのリレーションや販売チャネルという経営資産があります。そこを確実に維持しつつも、求められるものが変化すれば、それに合った製品、サービスを提供していくことが基本だと考えます。
─御社の強みをどのように捉えられていますか。
山田 前にも述べたように、プレートを中心とした材料提供で培った顧客とのリレーションだと認識しています。製品そのものの良さはもちろんですが、とくにアフターサービスや技術フォローについて、お客様からの高い信頼を実感しています。そこは力を緩めずに今後も強化していきます。
さらに、これまでオフセット印刷分野の材料提供が中心でしたが、今後はデジタル印刷が欠かせない技術になります。デジタル印刷のソリューションに関して、フラッグシップモデルの枚葉型インクジェットデジタルプレス「JetPress」を頂点に、乾式トナー方式のPOD機器群、富士フイルムBIの高速ロール紙カラーインクジェットプレスなど、国内ベンダーの中でも市場をリードする存在だと自負しています。そういう意味では販売会社として恵まれた環境にあります。
当社は、このプレートとデジタル印刷機を事業ドメインの両軸としています。プレートに関しては総需要が落ち込む中、厳しい局面を迎えていますが、新たな技術である無処理プレートが新聞でおよそ7割、商業印刷で3割を占めるまでに成長してきており、そこは視点を変えて刷版工程の無処理化を推進していきたいと考えています。
一方、デジタル印刷分野に関しては富士フイルムBIとの連携がかなり進みました。FFGSが持つ印刷リテラシーおよび顧客基盤と、富士フイルムBIが持つデジタル印刷分野での顧客基盤および技術を掛け合わせることで、新たなマーケティング営業がすでにスタートしています。
─今年11月開催のIGAS2022への出展についてお聞かせ下さい。
山田 今回のIGASでは、デジタル印刷分野の新たな技術発表が目玉になります。さらに「オフセット印刷ユーザーがデジタルを実践的に活用する」という視点で、オフセットとデジタルの共存運用を最適化し、そこで生み出された「余力」を再分配するという考え方にもとづく「最適生産分析ソリューション」の世界を、夢ではなく実践に近い形で提示したいと考えています。
プレートに関しては、今年のpage2022でも技術発表した新無処理プレート「SUPERIA ZX」を正式にリリースしました。視認性が強化されており、テスト段階でもユーザーから高い評価を得ています。
今回のIGASは、私の「デビュー戦」でもあります。久しぶりの展示会であり、会場で多くの方々にお会いできることを楽しみにしています(IGAS出展情報)。
─それでは山田社長のプライベートについて、ご趣味などをお聞かせ下さい。
山田 性格的には昔から社交的だとよく言われます。周りからは「大胆で大雑把で、タフネス」と勘違いされがちですが、意外と繊細な性格だと自分では思っています。営業畑の人間なので、大胆な面も多少あるかもしれませんが、何か事に当たるときは周到に準備するクセがついています。
学生時代は、音楽活動に目覚め、バンドでギターを担当していました。最近、当時のギターを引っぱり出して触っていますが、ぜんぜん弾けなくなっています。
また、30歳を超えてからはアナログレコードにハマり、いまでもそれは続いています。とにかく「アナログレコードを購入する」という収集行為が好きで、機材にはあまり興味がありません。好きなアーティストだと、プレス毎に同じアルバムを7〜8枚持っているものもあります。
また、最近は友人に誘われて山登りも。コロナ禍ではなかなか行けていませんが、健康維持のためにも続けていこうと思っています。
ゴルフは、腰痛を患い長年やっていませんでしたが、最近また再開したところです。
─最後に、印刷関連業界に向けたメッセージをお願いします。
「日本の印刷業界」という意味では多少ブランクがありますが、「印刷」には強い思い入れがあります。一意専心で業界のお役に立てるよう頑張る所存です。
─ありがとうございました。
