田中紙工、若手断裁士の養成に注力
「オンデマンドトランプ.com」は来年10周年
カードに特化した製本加工会社の(株)田中紙工(東京都板橋区、田中真文社長)は、断裁のプロフェッショナル集団として、若手職人の養成に継続的に取り組むことで、他社には真似のできない技術と生産性を高めてきた。世界に1つだけのオリジナルトランプをWeb上で作成できる「オンデマンドトランプ.com」は、そんな高い断裁技術を持つ同社が運営する通販サイトとして注目され、来年7月には開設10周年を迎える。大量のカード印刷に対応する(株)昇文堂(東京都千代田区)をグループ企業に有し、将来的にはあらゆるカードゲームの需要に対応する企業を目指す。

人事評価制度で若手の「職人離れ」を防止
トランプなどのカード類の断裁は、コンマ5ミリのズレでもヤレといわれる職人技術の世界。田中社長は「断裁機があればできるというものではない。経験の少ない製本会社に発注するのは非常にリスクが高い」と警鐘を鳴らす。
同社は裁ち屋として60年の歴史を持ち、「1本の紙の毛を縦に断裁できます」をキャッチフレーズに、その技術力をベテランから若手に継承するため、高卒の新卒者をいちからOJTで教育して一人前の断裁士に育てる取り組みを継続的に実施している。そのため、その高度な断裁技術は業界内でも有名で、「他の製本会社から断裁士を貸してくれと頼まれることもある」(田中社長)。
しかし、若者の「職人離れ」が進んでいることは事実。製本業界全体でも、断裁士の高齢化とともに断裁士の人数も減少している。そこで同社では現在、自社の断裁士のモチベーションアップのため「人事評価制度」の策定に取り組んでいる。社内に策定委員会を立ち上げ、社員の意見もアンケートで吸い上げ、どのような評価制度が最良なのかを、板橋区の産業振興課にもアドバイスをもらいながら進めているところだという。田中社長は「年内には構築し、冬のボーナスの査定から使いたい」と話す。
さらに来年からは、昇格基準についても「これができたら機長」などの具体的に分かりやすい評価制度の策定に取りかかる計画。同社ではこれらの取り組みで、「カード加工の田中紙工」として今後もプロフェッショナルの断裁技術をベテランから若手に継承し続けていく考えだ。
スマホで感覚的に編集できるのが人気の秘訣
同社が運営する通販サイト「オンデマンドトランプ.com」は、スマホからでも簡単にオリジナルトランプの編集作業が行えるのが特長。すべてのカードにオリジナルの写真を入れることができ、ストレスフリーで編集作業が行える。慣れれば数分で注文が可能だ。

同サイトの運営を担当する田中千晶氏は「現在は8割以上がスマホからの注文。クラウドのためいつでもデータの保存や再編集が可能で、専門的なデータ作成スキルも不要。アプリをダウンロードする必要もなく、スマホのメモリを気にする必要もない」と話す。
今年6月からは「オリジナルカルタ」と「フリーカード」を新商品として追加した。トランプと同様、ユーザーは自分で編集してオンライン入稿する方法のため、データチェックなどの人件費を抑えることができ、その分、小ロットでも低価格での商品の提供が可能になっている。
あらゆるカードゲームの需要に対応する企業に
来年は「オンデマンドトランプ.com」が10周年であるとともに、会社としては60周年を迎える同社。ホームページやSNS、展示会出展などで露出を高め、グループ会社の昇文堂と協力し、小ロットから大ロットまでのあらゆるカードゲームの需要に対応できる企業グループとしてPRしていく。
「年に何回かのカード受注のために、加工設備を内製化するのは総合印刷会社にとっても非効率。そのような時に思い出してもらえるカード加工会社を目指したい」(田中社長)
さらに、新たなカードゲームの企画提案なども行いながら、カード加工の需要創出に向け、攻めに攻めていく考えだ。田中千晶氏は「受け身ではなく、オリジナルカードゲームの企画提案を行い、積極的に営業展開を進めている。実際に反応の良い見込み顧客も出てきている」と話す。
ウイズコロナにおいても「経営は順調」(田中社長)という同社。今後も断裁士の士気向上のための様々な取り組みを進めながら、攻めの経営姿勢で事業拡大を目指していくという。
