印刷物の小ロット多品種化が一層加速することが予想されるニューノーマル時代に向けて、「作業の自動化」の上流にある「生産設計の自動化」に着目する印刷会社が増えている。そのソリューションとなるのが、富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ（株）（辻重紀社長、以下「FFGS」）が提供するジョブプランニング・面付けソフトウェア「Phoenix」だ。そこで今回、人件費を含めたコスト、時間までを考慮した生産設計の最適解を自動で弾き出す「Phoenix」の機能や効果について、FFGS営業本部の磯部剛史主任に話を聞いた。

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受注全体を俯瞰で捉える

　新型コロナウイルスによるパンデミックは、より印刷物の小ロット多品種化を加速させることが予想される。「非接触」の環境を強いられる中で、外出自粛やイベント規模の縮小が、大量に配布される広告チラシなどの存在感を奪う一方、SNSや通信販売、DMといった個人の趣味趣向に合わせたワントゥワンのコミュニケーション手法が活発化し、印刷物の小ロット多品種化の流れに拍車を掛けている。結果として、印刷のジョブ数は増大し、これらを「いかに効率良く処理できるか」という視点によるワークフロー構築が重要になってくる。

　当然ながら多くの印刷会社はこのトレンドへの対応を進め、面付け作業やデータ出力作業、CTPプレートの自動搬送など、生産工程における「作業の自動化」に着手している。しかし、これらの自動化は、その上流にある「生産設計」に基づいて行われており、そのほとんどが工務や生産管理部門などによる人海戦術で行われている。FFGS営業本部の磯部剛史主任は、「生産設計は製造業において非常に重要であり、ここを最適化することで生産性・利益向上に繋がる」と指摘する。

　実際、これまでの大量生産の環境の中において、生産設計にかかる労力、時間、コストはそれほど大きな問題ではなかった。しかし、小ロット多品種の時代では、ジョブ当たりの生産性（納期）と利益率を大きく低下させる要因になり得る。磯部氏は「これを防ぐには、ジョブ単位ではなく、受注全体を俯瞰して考えることで、ジョブ毎の生産設計にかかる時間、コストを最小化する必要がある」と語る。

　一般的に、面付けの設計や使用機材の選定などの計画作業は、1〜2名の専任者が担当していることが多く、とくに複数ジョブの付け合わせを行う場合は、最適なジョブの組み合わせを算出するのに多大な時間と労力を要している。また、製版部門での面付け作業も専門的かつ高度なノウハウが求められるため、計画作業と同様、属人化しやすい作業である。これらの計画や面付け作業は、設備の稼働効率やコストなどを左右する重要な工程でありながら、生産性を高める上でボトルネックになっているケースも少なくなく、こうした課題を解決するツールとして開発されたのが「Phoenix」である。

　「複数ジョブの受注情報と自社の資材や設備の情報の組み合わせとなると、単純にこの掛け算だけでも数万、数百万通りになる。この膨大な組み合わせの中から最適解を導き出す作業をPhoenixによって自動化することで、その部分の人件費を削減し、生産工程のスループットを最大化できる。作業の自動化も、この上流における生産設計を自動化してこそ、最大限に生きてくる」（磯部氏）

外部システムとの連携も柔軟に

　Phoenixは、人の経験やノウハウを必要とする「機材・資材コストをベースとしたプランニング作業や面付け作業」を、AIを用いて自動化するソリューション。ジョブプランニングというユニークな機能を持ち、MISなどからの受注情報や製版処理済みのデザインデータ、CADデータなどを読み込むと、利用可能な資材や印刷機の中から最適な組み合わせを選択し、同時に面付け・付け合わせパターンなどを自動生成した上で、印刷時間や製造コストの試算も併せて行うことが可能。複数種類の印刷機・用紙にまたがる大量の品目であっても、「インポジションAI」と呼ばれる独自のアルゴリズムによってわずか数分という高速処理で最適なプランニング結果を導き出す。

　「決められた組み合わせに対しての自動レイアウトはあるが、Phoenixはそもそもこの組み合わせを考え、かつレイアウトパターンまで自動で導き出すところが他製品と一線を画す」（磯部氏）

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　また、既存システムとのシームレスな連携もPhoenixの大きな特長だ。新たな自動化システムを導入する際、既存システムを丸ごと入れ変え、運用も大きく変える必要があるものが多く、現場の混乱も招きかねない。Phoenixは、REST APIやエンフォーカス社の工程自動化ソフト「SWITCH」連携など、外部システムからPhoenixをひとつのモジュールとして自動稼働させる機能や、スクリプトマークという外部の情報からマークを自動で発生、描画する機能がある。また、入出力できるデータフォーマットも多岐にわたり、印刷会社の所有する既存システムとのシームレスな接続が可能だ。「自動化したものを動かすために、その前後で手間暇や時間をかけていては意味がなく、自動化を動かす準備も含めて前後のシステムとシームレスに接続できることに意味がある」（磯部氏）

　今年3月にリリースされた最新バージョン「V7」では、ページ面付けやタイリング（大サイズデータの分割）への対応、印刷機の対応範囲拡大、カッティング機への対応など、従来以上に幅広いジョブでの活用や、より詳細なコスト計算が可能になっている。

【PhoenixV7の主な新機能】

▽ページ面付け対応

　CIP4で定義された折りカタログに準じた折りパターン、およびカスタマイズされた折りパターンに対応。折りパンフレットや冊子ものの面付けが可能になった。

▽タイリング対応

　プリンタの出力サイズを超える大判のジョブにおける自動タイリングに対応。

▽後加工機機連携

　打ち抜きやカッティング、抜き型作成等の後加工の工数・コストを含めた最適化計算が可能に。さらにZundではプランニングの際にZCCと通信を行い、ZUND社のカッティング機でカットした時間やコストを見積り結果へリアルタイムにフィードバックすることが可能。さらにはDXFなど出力対応フォーマットも拡充。

▽スクリプトマーク

　JavaScriptによりマークの形状と配置規則を定義することで、事前にマーク用のデータを準備することなく、さまざまなマークを自動生成することが可能。

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幅広い分野で活用実績

　Phoenixは、商業印刷はもちろん、紙器パッケージ、アクリル印刷、シールラベル、POP、製罐など、幅広い分野をカバーしている。単なる「ギャンギングソフト」ではなく、人件費を含めたコスト、製造時間までを考慮した生産設計の最適解を自動で弾き出してくれるツールとして、国内100社以上の採用実績がある。

【商業印刷】

　Web入稿によって大量の細かなジョブが日々入稿され、印刷機もデジタルとオフセットを併設。さらに、プリプレス工程で面付けソフトを扱える人間が限られており、ジョブ量が多いとそこがボトルネックになっていた。

　そこでPhoenixを提案。最適な印刷機の選択と処理するジョブの組み合わせの計算を自動化し、生産設計における時間短縮を実現。また、生産設計と同時にレイアウト生成まで行われるため、面付け工程の属人化を解消した。

　さらに、「SWITCH」やスクリプトを活用することで、そもそもPhoenix用に生成されていないWeb入稿システムからの情報をPhoenixが読み取れる形に成形したり、入出力先の振り分けなどの自動化も実現。結果として設定したフォルダに必要なデータをドロップするだけでWeb入稿→最適な生産設計→レイアウトパターン生成→選ばれた出力機への振り分けまで完了する完全自動化を実現した。

【紙器パッケージ】

　受注しているジョブの品種が多く、最適な生産設計に時間が掛かっていた。さらに「少しでも納期を短縮したい」「生産設計が属人化している」という状況だった。

　紙器パッケージの場合、レイアウトパターンが非常に複雑で、生産設計の組み合わせがより膨大になる。Phoenixは矩形だけでなく、箱の展開図のような複雑な形状でも正確に認識し、入れ子も含めたレイアウトパターンを計算できる。この会社は、Phoenixによる自動化で、2日程度の納期短縮を実現した。

【アクリルグッズ】

　アニメキャラクターやアイドルのキーホルダー、スタンドといったグッズで、個人制作のような案件も多い。また、キャラクターやメンバーの人気によってロット数がバラバラで、かつ種類も大量、さらに形状も複雑になる。

　この会社の要望は、「アクリル板のコストを削減したい（アクリル板は紙に比べて高価）」「生産設計（面付け）時間を短縮したい」「人によってかかる時間が違う」というものだった。この会社では、約百種類、約3,000個のジョブで時間を数時間から数分に、アクリル枚数も5枚以上削減することに成功。また、レイアウト数も半減したことから、カッティングの生産性向上に繋がっている。

　また、レイアウトデータはプリンタ用の印刷データとレーザーカッター用のカットデータに分解する必要があるが、ここもSWITCHと連携することでレイアウトデータ生成から各出力機に振り分けまで自動化を実現した。

すべての印刷会社にジョブ最適化の価値を提供

　最新バージョンで、フォトブックのようなページジョブやタイリングが必要なワイドフォーマットジョブにも対応の幅が広げたPhoenix。磯部氏は「これまではパッケージやペラ物の限られたお客様にしか提案できなかったが、V7のリリースによって、すべての印刷会社にPhoenixのジョブ最適化の価値を提供していきたい」と語る。

　また、V7では後加工工程まで含めたプランニングが可能となり、海外ではスクリプトマーク機能を使った加工機との連携も進んでおり、今後は国内でも訴求していく考えだ。

　「小ロット多品種では中途半端なロット数が多くなるため、印刷工程と加工工程は一緒に考えないとより最適な効果が生まれないと考えている。印刷工程と後加工工程の最適化をシームレスにプランニングすることで個々の最適化にはできない相乗効果をPhoenixV7で提供していきたい」（磯部氏）