アグフア[第3回 工場長サミット]現場の多能工化急ぐ
「コロナ禍とその後を見据えた自社の取り組み」〜業界の共通課題浮き彫りに
アグフアが提唱する「アズーラ速乾印刷」というひとつの技術を共通の価値観とし、「工場の改善で印刷会社全体の変革を目指す」という同じ志を持つ印刷会社が集う「工場長サミット」が7月14日オンライン形式で開催され、10社の工場管理責任者らがパネラーとして参加した。3回目を迎えた今回のテーマは「コロナ禍とその後を見据えた自社の取り組みについて」。同会発起人でもある佐川印刷(株)(愛媛県松山市)の佐川正純社長がファシリテーターをつとめ、10名のパネラーから、コロナ禍において各社が実践した経営改革や業務改善、またアフターコロナ時代に向けた取り組みの一端が発表された。
開会に先立ち、挨拶に立った日本アグフア・ゲバルト(株)の岡本勝弘社長は、「この『工場長サミット』は、先進的な取り組みで業界をリードする印刷会社にご参加いただき、直面する課題をともに解決していくことを趣旨として立ち上がったもの。コロナ禍で仕事が激減する中、業務を改善し、成果を出している印刷会社も多く存在する。今日は、そんな情報を共有し、自社に持ち帰って実践していただく機会にしたいと考えている」と述べ、活発な議論と問題提起を促した。
今回ファシリテーターをつとめたのは、佐川印刷の佐川正純社長。まず、工場長サミットの開催意義について「CTPプレートにはそれぞれ特徴があるが、アグフアのプレートは『プロ向け』と表現され、工場長やオペレータの意志を反映できるプレートだと理解している。様々な変動要因があり、その最適解を導くには掛け算を強いられる。3種類のインキ、紙、H液があれば、それだけで27通りの可能性があるわけだ。よって各社が『プロ』として突き詰めた技術情報を共有し、継承することは大きな意味を持ち、そこに果敢に挑戦する印刷人を集めたのが、この『工場長サミット』だ」とした上で、「今回のパネラーは、現場のトップや経営者としてのプライドとオピニオンを持つ『プロ中のプロ』。その中で浮き彫りになる課題は共通点も多く、業界の典型的な課題でもあるだろう。今回は、その打開策のヒントを導き出し、共有したい」と呼びかけ、工場長サミットが開幕した。
新型コロナウイルス感染症拡大によるパンデミックによって印刷需要は急激に減少した。その中でも影響を受けていない会社、あるいはコロナ禍によって新たな需要が生まれた会社もある。
さらに、コロナ禍において情報伝達手法としてその優位性が再認識された「デジタル」という「敵」も印刷会社の仕事を浸食しつつある。今回の工場長サミットでは、そんな環境を踏まえ、オフセット印刷工場の現場を統括する「プロ」が、コロナ禍とその後を見据えた自社の取り組みについて意見を交わした。
【(株)藤和】製造部 部長 工場長 伊藤英隆氏(東京)

イベント自粛をはじめとする人流抑制の影響で当社が主力とする商業印刷は、昨年夏実績で前年比3割減まで落ち込んだ。非接触を強いられる中で対面営業ができないことが大きく影響した。
そこで、従来の商印から、堅調な出版・書籍に大きく舵を切り、現場の人員を中心とした営業活動に着手。一定の成果を上げた。
一方で、工場の稼働率低下にともない、その時間を使って教育に注力。いわゆる現場の「多能工化」に取り組んだ。結果、工場の人員配置における汎用性が高まったことで、時差出勤でも機械の稼働率が変わらない体制を構築。この活動は現在も継続中である。
アフターコロナに向けて、現場には量的、質的ともにどんな仕事がきても対応できる体制を作っておくように指導している。リーマンショックの時には一気に印刷会社が減少し、経済回復後は逆に供給が追いつかない状況もあった。では今回のコロナはどうか。私は、需要は戻らないと思っている。だからこそ、どのような状況が訪れても対応できるように勉強し、そして組織を再構築していくべき。社員全員がアンテナを張り巡らせて世の中の流れを敏感に読み取り、組織変更、技術習得、設備投資を柔軟に行っていく。
【惠友印刷(株)】常務取締役 大澤俊雄氏(東京)

出版がメイン。コロナ禍で藤和様のように商印が出版に手を出すことは分かっていた。営業にもその危機感を浸透させた。
当社は文字物・モノクロの会社だったが、12年前にカラー化、4年前にはUV機も導入している。その中で、カラーマネージメントにおいては、「こうやれば、こういう色が出せる」という印刷会社が押しつけるカラーマネージメントを廃止した。色には好みがある。顧客のそのイメージを制作に伝え、印刷に忠実に反映させることで顧客満足度を高めた。「お客様が出したい色を叶える」といった印刷にこだわっている。
アフターコロナに向けてということでもないが、濃度を高めた立体感のある印刷物への取り組みに力を入れている。インキを盛って出すところは出し、シャープな網点再現で絞るところは絞る。これを我々は「マッチョな印刷物」と呼んでいる。標準データの100%は何をやっても100%。それを120%に引き上げるのが印刷工程だ。当社は、そこにこだわることでカラーの仕事を増やしてきた。
また、吉田印刷所様が提唱する「フレッシュプリント」に着目し、大型のデジタル印刷機導入を予定している。「フレッシュプリント」とは、印刷物が情報の陳腐化によって無駄なく効果的に使われていない状況に対し、必要部数を小口分割印刷することによって、顧客側での印刷物の無駄を排除するというもの。この実践にデジタル印刷機も取り入れて対応していく。
【大日印刷(株)】取締役 製造部ゼネラルマネージャー 小林広明氏(愛知)

営業面では動画制作分野に参入、印刷現場では資材の見直しを進めた。とくに当社では独自のオリジナルインキを使用しているが、それをより乾燥の早いものにするために改良を進めている。
従来インキでは、艶や濃度に不満があったことからT&K TOKAのインキを13ヵ月かけて改良し、現在使用している。このインキを使って他社が初版を刷った4色カタログの増刷分を当社で印刷した際、納品後すぐに増刷の依頼が来た。その時、繁忙期だったことから断ろうとしたら、「どうしても刷って欲しい」と。理由を聞くとクライアントから「増版の方が綺麗だね」と言われたということで、非常に嬉しかった記憶がある。
当社は、指定がない限りすべての仕事をスブリマ240線で印刷している。高精細の網点を再現するには常に水を綺麗に保つ必要がある。2018年から湿し水濾過装置を設置。いま18ヵ月フィルターを交換していない(メーカー推奨6ヵ月)。いつでも高精細を印刷できる状態が保たれている。
また当社では、業界の垣根を越えた5社によるサービスアライアンスプロジェクト「サービス3倍プロジェット」を推進。これは、オープン・イノベーションを軸とした販路拡大、商品力アップ、設備共有、業務改善に関する情報共有などによって新しい価値を創造し、企業価値を高める取り組み。今後も強力に推進していく。
