[寄稿]検査エビデンス重視へ〜定着する検査装置ニーズ
ジクス株式会社 代表取締役 高原亮介氏
毎年検査特集号で原稿の依頼を頂くのだが、読まれる方に有益なコンテンツを提供するなど僭越であるので、出来る限り弊社の製品や会社のPR色を持たない様に心がけて小生の感じることを書かせて頂くのみである。こういった出版物に文章として残るものは、蒸発してしまう会話とは異なるのでその時点でのことではあっても出来得る限りデコレーションしない事実を発信したいからである。

さてこの1年はコロナ禍に引き起こされた社会の混乱で様々な予期しない出来事に巻き込まれ、いろいろなことを考えさせられる年であった。そのような中でもこの1年、少なからずお客様に検査装置を買って頂いたわけであるから、これも本当の意味で検査装置が不可欠になりつつあることの表れであろうと感じている。
もちろん検査装置導入の理由は、「事故を起こして得意先から要求された」「検品コストを下げたいから」等々さまざまであると思うが、検査装置による品質保証がスタンダードなものとして認知されたことが一番であろうと思われる。
つまり品質保証ツールとして検査装置というものがあり、「皆使っているのだから...」というフェイズになったということだと感じている。
検査装置の活用は、その印刷工場がやりたいことが明確になっていることが重要
インライン検査装置がオフセット印刷の工場に出現し始めてからおよそ20年であるが、弊社もまた初期のころから検査装置の必要性を模索し、また納入したお客様にはうまく活用してもらえるようにヒアリング等をして機能を追加しつづけてきた。
弊社の開発スタイルは、ある意味奇態で、開発は常時行っている。例えば、何か新製品を出すときに開発計画を立てて実施するような形態ではなく、日常的に新しい機能を追加し、その延長線上に新しい製品が出来ていたりする。検査装置はオフセット印刷工場にとって新しい装置であったので、まずはユーザーニーズそのものが開発ターゲットそのものであると考えたからだ。
メーカーである以上、お客様に検査装置を納めた限りは「買ってよかった」と言ってもらいたいので、その結果、納入を重ねるたびに新機能が追加されてきた。
このことで気が付いたことがある。その要求を出したユーザーからは高評価を頂くのであるが、これだけ喜んでもらえるのだから、さぞほかの印刷会社でも活用していただけるだろうと期待していると、印刷会社によってはあまり活用できない、というか興味を持たれないということが少なくない。
例えば、弊社のインライン検査装置ではインクジェットでシリアル番号を付けて誰でも容易に分別出来るようにしたシステムがある。10年ほど前にオランダの印刷会社へ行ったときに見たものが原型になっていて、それから弊社の得意先から絶対に必要なシステムと言われて要望を受け、さまざまな機能を組み込んで仕様を確定して開発したものなので、完成とともに実に上手に活用して頂き、検品の効率が改善された。ユーザーの社内でも担当者が評価されていたし、協力会社へも大きくレビューされていた。小生は当然同じような分野の仕事をしている他の印刷会社にも役立つものと思って機会あるごとに説明・紹介させていただくのだが、同様にうまく使える会社はもちろんあるのだが、まったく興味を持たず、「そんなものは必要ない」という会社も少なくないことに驚かされることがある。
このような経験から感じることであるが、その機能が設置先の印刷現場からのニーズを反映したものである場合、検査装置の活用はもちろん、追加された機能も高評価で上手く使われることになるが、導入先の会社が検査装置で何をやりたいかが明確になっていない場合は同じ機能でもうまく使えないし、また評価されないようである。
不景気でも検査装置に常に高いニーズを要求する印刷会社が増えている
前述のように、様々な機能を紹介しても必要性を感じないという反応がある一方で、会社の規模にかかわらず当方がたじたじとなるくらい常に高いニーズを次々に要求してくる印刷会社も増えてきている。こういった会社は現在のように不景気な時期においても、というよりはこのような時期だからこそ新しいことに着手しているようにも見え、検査装置がスタンダードなものと認知された今こそ、それを積極的に設備することで得意先からの安心感と信頼感を確保するという「攻めの経営」をされているのかもしれない。
また同様に、新しい分野であるデジタル印刷においては、いっそう検査装置に対する必要性の意識が高いように思われる。デジタル機導入検討の仕様打ち合わせでは多くの印刷会社がこの段階から検査をどのようなワークフローで行うかということが明確になっていることが多い。
アナログ印刷もデジタル印刷も品質のエビデンスがあることがスタンダードになりつつある
従来は良品であれば検査をしているかどうかということは問われなかったわけであるが、今の社会では「検査済」という認証が重視されるようになってきた。つまり検査工程を経ているかどうか?が問われるように変化してきているように思われる。そして印刷の検査装置がスタンダードなものになるにつれて、検査装置を通った印刷物は品質のエビデンス付きという流れが出来つつあるのではないかと考えるこの頃である。
