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遊文舎、ハイブリッド型でLTV重視[印刷通販サイト「すぐスール.com」]

Web集客×営業機能で収益構造に厚み

 文字物の小ロットに強みを持つ(株)遊文舎(本社/大阪市淀川区木川東4-17-31、木原庸裕社長)が運営する「すぐスール.com」は、Web集客と営業サポートの両機能を融合させたハイブリッド型の印刷通販サイト。Web上で完結できないイレギュラーなニーズを営業へと繋ぎ、LTV(ライフタイムバリュー、顧客生涯価値)を高めることで、収益構造に厚みを持たせるとともに、企業としての「新陳代謝」を活発化させている。

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木原社長(右)と営業スタッフ


クライアントが自社に最も期待することは...

 大学の語学テキストをはじめ、各種団体の広報誌や年誌の編集・印刷を事業の源流とし、「文字組版に注力する、大阪でも珍しい会社」として知られる遊文舎。学術関係や出版社などの得意先を多く抱え、現在でも売上の55%を書籍印刷が占めている。

 設備面では、菊全2色反転機や菊半4色機などのオフセット印刷機に加え、5台ものトナーPOD機を併設。さらに昨年10月には、京セラドキュメントソリューションズのインクジェットプロダクションプリンタ「TASKalfa Pro 15000c」1号機を導入。これらデジタル印刷機への積極投資・運用の結果として、クライアントからは『出版の世界において小ロットに強い印刷会社』として高い評価を得ている。

 そんな同社が印刷通販事業を手掛けるきっかけとなったのは、当時、印刷業界向けのコンサルティングに力を入れていた船井総研との出会いだった。印刷会社として「組織的に集客できる仕組み」を模索していた同社は、ブランディングを含め、自社の強みについて客観的な分析を船井総研に依頼。そのプロセスにおけるクライアントへのヒアリング調査が、同社を印刷通販事業へと導く結果となったようだ。

 「もちろん私自身、自社を『良い会社』だと思っている。そして自社の強みについては、『制作技術』や『書籍印刷のノウハウ』、そして何より『品質』だと思って疑わなかった。しかし、ヒアリングの結果、クライアントの評価はそこではなく、顧客接点である営業の『対応力』や『瞬発力』、あるいは『スピード対応』にあった。クライアントにとって技術や品質は、ある一定のレベルを超えると差別化の要素としてあまり機能しないのかもしれない。そこでクライアントが当社に対して最も期待を寄せる『スピード対応』という強みをさらに打ち出す集客の仕組みとして『印刷通販』というビジネスモデルに着目した」(木原社長)

「効率追求で原価を下げる」というビジネスモデルとの決別

 遊文舎が印刷通販事業のメインコンセプトに掲げたのは、もちろん「納期・スピード対応」だ。2010年に立ち上がった印刷通販サイトも、そのコンセプトを表現した「すぐスール.com」と名付けられ、100頁100冊までの小冊子をはじめ、2,000枚までのチラシ、100枚までのポスター・名刺など、内製できる商材に限定した「最短3時間納品」のサービスを開始した。

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https://www.sugusu-ru.com



 当時、「印刷通販」の市場が急激な成長期を迎えていたものの、ビジネスモデルとしては未だ黎明期にあり、多くのサービスがギャンギング+1週間程度という納期設定で低価格を売りにしていたことから、「最短3時間納品」というキャッチフレーズによるイメージ戦略はユーザーにとって斬新だったと思われ、「すぐスール.com」は順調に売上を伸ばした。そして立ち上げから3年、大きなターニングポイントを迎える。

 印刷通販事業を展開する中で木原社長は、デザインからの依頼や仕分け発送、変型物など、ネット上では完結できない需要が思ったより多いことに着目。これら個々のイレギュラーな需要に対応するため、まずは電話によるサポート体制を強化した。つまり、その背景には「当社より安い印刷通販サービスはいくらでもある」という認識のもと、「Webで受注し、人を介さないワークフローでシステマチックに効率を追求、そして原価を下げる」というビジネスモデルとの決別を明確に打ち出すとともに、「顔の見える印刷通販」への転換をはかる狙いがあった。

 同社が新たに目指した印刷通販のビジネスモデルとは、印刷通販サイト「すぐスール.com」をWeb上の営業窓口として機能させ、そこで派生するイレギュラーなニーズを的確に営業へと繋ぐ「ハイブリッド型」の印刷通販事業である。

 「現在、『すぐスール.com』の売上は全体の1割程度。書籍や冊子といった頁物の受注が7割を占め、その平均ロットは300冊程度。商業印刷物を中心とした印刷通販事業と比べて顧客単価は高い。さらに、ここを新規顧客からのファーストコンタクトの場として機能させ、営業がタイムリーにフォローすることで、定期物や継続的な受注に繋がっているケースが非常に多い。LTV(ライフタイムバリュー、顧客生涯価値)を考えると、当社の印刷通販事業は大きな成功を収めていると自負している」(木原社長)

印刷会社がWeb集客のノウハウを持つ必要性

 今回、遊文舎の「印刷通販」というビジネスモデルを取材したわけだが、最後に木原社長は、「印刷」という商売への思いの一端を語ってくれた。

 「2010年の印刷通販事業立ち上げ当時、遊文舎が長年育んできた従来ビジネスを一切放棄し、一気に印刷通販専業へと舵を切ることも考えた。自分の中ではその勝算もある程度あったわけだが、ただ無機質な商売はしたくなかったし、当社を長年ご愛顧いただいているファンを大切にしたいという思いも強かった。そこを追求することが我々の商売の醍醐味であり、王道だと考えている。しかし一方で、定型的な印刷物はデザインを自社でコンプリートし、安くて早い印刷業者をネットで探すという市場ニーズの高まりは明らかである。さらに、『集客』は商売で最も難しいところ。それは我々のクライアントの課題でもある。自社がWeb集客のノウハウを持つことで、単なる請負ではなく、クライアントと対等な立場でソリューションできる存在になれるわけだ。その意味からも、印刷会社はWebを活用したEコマースの機能を持っておくべきだと考える」(木原社長)

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