after virtual.drupa|ミューラー・マルティニ、印刷製本DXに貢献
「感性×バーチャル」で訴求 〜 独自オンラインショールーム開設
ミューラー・マルティニ社は「virtual.drupa」に参画し、「DXレディ」の新製品群を発表。これをきっかけにスイス本社のWebサイト上に独自のバーチャルショールームを開設し、「感性×バーチャル」のハイブリッド型プロモーションを開始している。今回、ミューラー・マルティニジャパン(株)の五反田隆代表に、その背景と狙いについて聞いた。
「リアルには変えがたいものがある」
「virtual.drupa」参画企業において数少ない製本機械メーカーとなったミューラー・マルティニだが、やはり、この分野におけるバーチャル環境での「訴える力」には限界があったように思う。「リアルには変えがたいものがある」といったところが正直な感想だ。
リアル展示会の場合、会場の雰囲気やブースの盛況ぶりなど、その臨場感を肌で感じ、予期せぬ発見があるというのもひとつの醍醐味だが、バーチャル環境では、ある程度「決め打ち」で訪問することになってしまう。ただ、我々はバーチャルプロモーションを否定するわけではない。

ミューラー・マルティニでは、1986年から年3回発行してきた情報誌「PANORAMA」を、Web展開に移行している。これについてブルーノ・ミューラーCEOは、「印刷物は感性だ。経済性を求めるならデジタルだ」と述べている。これは今回の「virtual.drupa」にも言えることで、とくに我々が手掛けるポストプレス機器については「実際の機械音を聞いてみたい」という要望も多く、その成果物の多くが「本」という感性に訴えかけるものであることから、バーチャル環境での訴求は難しい。
「感性がともなわなければ、画面だけの訴求には限界がある」というならば、例えば事前にサンプル(本)を郵送しておいて、バーチャル環境で「その本はこの機械で製本したものです」という、いわば「ハイブリッド型」の販促は有効かもしれないと考える。
「virtual.drupa」に対するスイス本社の評価は肯定的である。会期中のウェビナーへの参加者数も予想を上回ったそうだ。ただ、「virtual.drupa」の対応言語が英語とドイツ語のみだったこともあり、日本での訴求力は低かったことは否めない。我々にとっては、改めてリアル展示会の優位性を痛感した「virtual.drupa」だったと言える。
中綴じの需要が低迷
「virtual.drupa」閉幕後の市場はどうなるのか。無線綴じ、上製本、中綴じに大別して考察すると、世界的に見て、無線綴じはこれまで通り横ばいで推移。上製本は、「捨てられない」「家具のような」「自分だけの」という、いわゆる高級志向が需要を支えるだろう。一方、中綴じは、かなり厳しい局面を迎えている。週刊誌やコミックは電子書籍に置き換わり、またパンフレットはWebページに移行する。さらにイベントにかかわるものはSNSなどに流れる。中綴じの成果物は、「待てない情報」が多いということ。実際、ミューラー・マルティニでも無線綴じ、上製本の機械は比較的に堅調だが、中綴じは時代の流れに影響を受けやすく、ワールドワイドでも落ち込んでいる。
一方、地域別で見て、米国と中国はコロナ禍からのリオープニング経済を背景に好調なのに対し、未だにパンデミックの状況が続く日本での機械販売ビジネスは、心理的な影響もあって今年度の回復は難しいと見ている。中国では大型案件も多く、また米国ではデジタル対応機への投資も旺盛で、このままでは日本の印刷製本産業が周回遅れになってしまう懸念さえある。
「virtual.drupa」から「オンラインショールーム」へ
ミューラー・マルティニは「virtual.drupa」で、中綴じ機として「Primera PRO」、無線綴じ機として「Vareo PRO」「Publica PRO」、デジタル製本システムとして「SigmaLine III」など、多くの新モデルを発表した。「PRO」と名付けられた新機種は、機能、品質、効率を向上させた「プロ好みの機械」という意味で、柔軟性な生産プロセスを提供するものだ。ちなみに「Publica PRO」は、コルブス開発の高速機をミューラーブランドで新たに発表したもので、機械配色もミューラー色である「レーザーブルー」に変更されている。これら新製品の基本コンセプトには、総じて「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が組み込まれている。

我々は、マーケットリーダーとして世界的なトレンド情報を発信していかなければならない立場にあることから、スイス本社のWebサイト(https://www.mullermartini.com/)では、DXにフォーカスした情報やトレンド、成功事例などをブログ形式で紹介している。ぜひ、一度アクセスしてみて欲しい。
そして現在、スイス本社ウェブサイト内にオンラインショールームを開設し、独自のバーチャル展示会(https://mullermartini-virtual.com/)を公開。ここに「virtual.drupa」で発表した新製品が一堂に掲載されている。各モデルのデータシートやカタログのダウンロードはもちろん、動画によって機械稼働状況を見ることもできるなど、かなり充実したコンテンツとなっている。簡単な登録を行えば誰でも閲覧できるので、ぜひご覧いただきたい。
日本においては、品質への強いこだわり、またコロナ禍の影響もあって、デジタル対応機への投資意欲は停滞していると言わざるを得ない。ただ、我々はデジタルレディの機械づくりを終えており、いつでも印刷製本会社の「DX」に貢献できる準備が整っている。
