太陽機械製作所、顧客に必要とされる製品の持続的開発へ
サステナブルな中期経営計画策定〜「組織力向上」にも成果
「顧客に必要とされる製品を持続的に開発していく。これにより、メーカーとしての存在意義を高めていきたい」。(株)太陽機械製作所(本社/東京都大田区、岡倉登社長)は、この方針を実現するための中期経営計画を策定して事業を展開しているが、岡倉社長は「最先端のデジタル技術や経営手法は、自然とサステナブルな取り組みにも関わってくる」としており、それはSDGsとの関連性だけでなく、一企業としての「組織力向上」にもつながっているようだ。社員に喜ばれる快適な作業環境の提供、顧客に喜ばれる製品開発など、社内外で効果を生み出している。
恒久的なリモートワークを実施。北海道に移住した社員も
同社は、フォーム輪転機やシール・ラベル印刷機、インクジェット用の紙搬送・加工ラインなど幅広い製品を開発・製造するメーカー。「人と機械のハーモニー」を製品開発方針としており、岡倉社長は「メーカーよがりでなく、顧客に価値を生んでもらえるメーカーでありたい。私も技術者出身のため、ときとしてメーカー本意の技術をアピールしたくなることはあるが、機械を開発することは、あくまでも手段であって目的ではない。『顧客主義』のメーカーで在り続けたい」と製品開発への思いを語る。
そんな同社では、働き方改革の一環として、従業員が快適に働き続けられる環境の提供を志している。その代表的なものであるのが、恒久的なリモートワークの実施である。「コロナ禍となり2年目のことだが、リモートワークを恒久的に行えるようにしたところ、待ってましたとばかりに『函館に移住したい』という社員からの申し出があり、承諾した。新鮮な空気の場所で仕事がしたいということであった」(岡倉社長)。
移住したのは東京本社の技術社員。ミーティングなどもオンラインで参加しているが、仕事にはまったく影響はないようで、むしろ「突発的に何かの事態があっても家で仕事ができるため、リスク回避にもつながる」(岡倉社長)。生活の拠点を移住したのは今のところ1人だけのようだが、埼玉の遠方から通勤していた社員なども、自身が働きやすいペースでリモートワークを取り入れており、結果的に作業の効率化に結び付いているようだ。
社員に快適な作業環境を提供。男性の長期育児休暇も認可
また、現場作業についても「できる限り、社員が精神的にストレスを感じない作業方法を取り入れ、快適に仕事が行える環境を提供している」(井上順一郎取締役 技術部長)。同社は、汎用品だけでなく、オーダーメイドの製品開発が可能な技術開発力に自信を持つメーカーであるが、井上技術部長は「汎用品のロット生産については、人がいなくても機械が回るように極力、夜間の無人化率を上げている」。これにより、現場社員の負担が減り、残業時間の削減にもつながっている。岡倉社長は「清掃についても清掃用員を雇用するようにしており、昔のように社員に掃除をさせることもなくなった。社員には本来の仕事に専念できる環境を提供している」(岡倉社長)。
そして、生産性の向上で得られた会社の利益については、「社員に還元するようにしている」(岡倉社長)。残業時間など働く時間が減った上に収入も増えるため、社員のモチベーション向上につながっているという。
また、同社の働き方改革の取り組みとして注目すべきなのが、女性社員だけでなく、男性社員でも長期の育児休暇を申請できることだ。井上技術部長は「4年前から実施しており、これまでに3人の男性社員が長期の育児休暇を取っている。技術開発の中核となっている社員が育休を取ったこともある。その間、働きたいときには仕事をすることもできる」と説明する。中小企業の多い印刷業界の中では、かなり先進的な取り組みと言えるのではないだろうか。
中期経営計画にKGI・KPIを取り入れ、見積案件などが増加
「当社の営業はいわば個人商店の集まりであった」。岡倉社長は、中期経営計画を取り入れるまでの自社の営業職についてこのように振り返る。同社では、数年前に「5年後、10年後に太陽機械製作所をどのような企業にしたいのか」という思いのもと、中期経営計画を策定。ここにKGI(経営目標達成指標)や、KPI(重要業績評価指標)を取り入れ、営業改革を推進している。
これまで、同社の営業は営業方法も千差万別で、また、営業の横のつながりはなかったが、情報共有による「販売戦略の見える化」に取り組んだ結果、様々な効果が生まれている。岡倉社長は「これまでは、社内の情報共有がなかったため、まるで『隠し玉』のように思いもしなかった企業に売れるということもあったが、営業のそれぞれの行動や進捗状況を『見える化』し、若手からベテランまで、目標を持って取り組むようにしたところ、見積り案件の数も目に見えて増えてきた」と説明する。
さらに、これまでのように突然、「隠し玉」のような顧客に決まることもなくなり、見込み客が事前に分かるようになったことから「注文前から納期やコスト、生産台数などを予測して注文を取れるようになった」(井上技術部長)と、営業と現場の連携がスムーズに動くようになり、「会社としての組織力も向上した」(岡倉社長)と、様々な効果が生まれているようである。
ロス紙削減するサステナブルな印刷機、加工技術で顧客に貢献
同社が昨年のIGAS2022で紹介した2種類の凸版輪転ラベル印刷機「TUR-250 Tutti+」と「TCR-200 Tutti」。同社の印刷機は、回生エネルギーやLEDの活用で省エネを実現するが、とくにユーザーから評価されているのはオペレーターの作業負荷を軽減できることと、ロス紙を削減できることだ。井上技術部長は「初期位置機能により、セッティングした状態でユニットの場所が決まる。この機能により、紙を流さなくても見当が合うためロス紙の削減につながり、資源の有効活用が可能になる」と話す。
また、「TCR-200 Tutti」をベースにフレキソユニットの開発を現在行っており、4色で全長4,000mm弱の小型で低価格な環境に優しいフレキソ印刷機を今秋に発売する予定だ。
さらに、同社では数年前より、「加工技術」を高めることに注力。ロボットなどを活用した自動化を推進している。これにより「顧客に必要とされる製品」、「顧客が価値を生むことができる製品」の開発を進めている。
これまでの具体的な事例としては、フォーム輪転機を改造して「紙ファイル」を製造できるようにしたり、クラフトペーパーを折加工して「紙の緩衝材」を製造できるようにしたり、薬袋の専用機を「マスクケース」を製造できるものに改造するなどの前例がある。岡倉社長は「大きな開発だけでなく、小開発、細かい開発にも注力していきたい」。このほか、印刷工程の後の帯掛けなど、物流工程を自動化するシステム開発もさらに進めていく考えである。
有機エレクトロニクス事業化推進部でもサステナブルな新製品開発へ
同社は、2012年に有機エレクトロニクス事業化推進部を設立。フレキソ印刷機を活用してセンサーやアンテナなどの回路を極薄のフィルムに印刷することで、安価に大量生産できる新技術を山形大学などと共同で開発しているほか、「新商品創出プロジェクト」として、様々な新製品開発に取り組んでいる。
これまでの商品開発例としては、「知育ペーパーセンサー」がある。電極印刷を施した折り紙を活用したもので、幼稚園児向けから小学校中学年向けまで、初級セット、中級セット、上級セットを用意している。同事業化推進部長でもある井上技術部長は「外部セミナーを受け、会社の存在意義を見つけながら、SDGsへの関連性を第一に考えた製品開発を進めている。これにより、当社が目標とする『顧客に必要とされる製品』を生み出していきたい」と将来を展望する。
また、岡倉社長は「利益主義だけではメーカーとして持続的に存在意義を確立していくことは難しい。新事業や新たな分野への参入にも挑戦しながら製品開発を進めていきたい」と話す。同社はメーカーとしての存在意義、理念を追求しながら持続的に顧客から求められる企業を目指していく考えだ。
