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コダック、顧客の持続可能な成長を促進〜BCPで無処理版採用へ

コア技術でサステナビリティ提供

 コダック社は、印刷、先端材料および先端化学薬品を中核基盤とするメーカー。130年以上にわたる研究開発によっておよそ3万1,000件の特許を取得し、とくに近年では環境責任におけるリーダーシップに強くコミットするとともに、「サステナブル」に関するメッセージを強めている。今後、「ケミストリー」と「コーティング」という2つのコア技術によって、どのような価値を創造し、印刷会社、あるいは社会にどのようなサステナビリティを提供していくのか。


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コダック サステナビリティレポート2022

ケミストリーとコーティング技術

 ジム・コンティネンザCEOは、コダックのビジネス領域を「産業界全般」と定義した上で、「私たちはケミストリーとコーティング技術の領域で、どこよりも優れた成果を上げている」とし、この2つのコア技術による事業展開を強化していく考えを示している。

 先端材料および先端化学薬品分野の新たなソリューションのひとつに、EVバッテリーおよび燃料電池アセンブリ用のコーティング基板がある。同社は昨年8月、米国のEV用バッテリー開発企業であるワイルドキャットディスカバリーテクノロジーズ社(WDT社)に資本参入。これには、バッテリーセルで使われる電極のコーティングにフィルム製造の技術と工場設備を応用する狙いがある。今年1月にはWDT社がBMWとの提携を発表するなど、その事業化に期待が高まっている。

 また、新しい遮光技術として「KODALUX ファブリックコーティング」の開発にも成功している。この技術は、フィルタリングから100%の遮光まで、独自の微粒子技術で光を調節できるというもの。これもコダックのコーティング技術により、従来の製品よりも製造に必要な水、エネルギー、化学薬品が少なくなり、さらに効率的で効果的な光調節が可能になるという。

 コダックジャパン・プリント事業部プリント営業本部・本部長の中川武志執行役員は「日本ではあまり知られていないが、コダック社はケミストリーとコーティングにおける基礎技術の応用で様々な分野にサステナブルな事業展開を行う企業である。我々も印刷関連事業にコミットメントする中で、このことをもっと訴求していきたい」と語る。


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中川執行役員


環境とBCPという視点

 コダックの事業全体の7〜8割を占める印刷関連事業のポートフォリオで提供している多くの製品によって、世界の印刷会社が、CO2排出量の削減を実現し、エネルギー、水、化学薬品の消費量を減らして廃棄物を削減することで、持続可能な操業を可能にしている。その中核となるのがSONORAプロセスフリープレートだ。

 完全無処理版は、処理薬品を一切使用しないため、廃液をまったく排出することなく、環境にやさしいクリーンな作業環境を実現するものだが、ここにきてBCP(事業継続計画)の観点からのサステナビリティが注目されている。

 SONORAは全世界6,000社で採用されており、国内累計採用社数ではおよそ900社におよぶ。サステナビリティレポートには、「有処理プレートをSONORAに置き換えることで、印刷業界全体で節約できるエネルギーの推定量(年間)」として、330万リットルのプレート現像液、2,400万kWhの電力量、5億700万リットルの水という数字が示されている。

 コダックのプレート出荷量における無処理版の比率は、現在、新聞印刷分野で75%、商業印刷分野で50%を超えている。この新聞印刷における無処理化率の伸びは、とくにBCP(事業継続計画)の観点が大きく作用している。2社購買を基本とする新聞社では、アナログ刷版の時代は現像液を共通利用できたため何ら問題はなかった。しかし、有処理CTP版になると、他メーカーの現像システムを共有できないため、1台のCTPシステムにトラブルが生じると、単純に生産能力が半分になってしまう。中川本部長は「アルミの需要逼迫による供給不足が懸念される中で、二社購買を基本とする新聞社が現像システムに縛られない無処理版への移行を進めている」と説明。また、「商業印刷分野でもBCPの観点で完全無処理版採用の検討を進めているユーザー様が増えてきたと認識している」と語っている。

 「2019年に性能が大幅にアップしたSONORA CX2を上市して以来、商印・出版・パッケージ印刷分野など、幅広い用途で数多くのユーザー様で満足してご使用いただいており、一気に無処理化の流れが加速してきた」とする中川本部長。そのSONORA CX2から昨年さらにメジャーアップデートした「SONORA XTRA」では、「視認性」「感度」「耐傷性」「耐刷性」の4点で性能が向上しており、加えてコダック独自の機上現像技術である「Press Ready Technology」に機上現像時の挙動を改善する新技術を導入、広範囲の刷り出し条件に対応可能な機上現像性も実現している。「SONORA XTRAは現在数十社で採用されているが、とくに従来品で印刷適性への課題を感じられていた印刷会社から移行が進んでいる。環境とBCPという観点、加えて製品自体の性能向上によって、現在、抱えきれないほどの案件を頂戴している」(中川本部長)

 また、今後の開発の方向性については、「現在、SONORA XTRAの各性能は有処理版と比べて90%程度のところまできている。すべての性能において、まだ10%の改良余地がある」とし、全方位の開発を進めていく考えを示している。


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SONORA XTRA


プレート調達リスク回避にデジタル印刷

 一方、同社主力事業のひとつでもあるデジタル印刷分野もサステナブルな事業として注目されている。

 ジム・コンティネンザCEOは、「デジタル化により、製造と流通に膨大なエネルギーと資源が必要となるアルミニウム製の印刷プレートが不要になる。同時に、デジタル化により、お客様はコストの上昇やプレートのサプライチェーンに関する課題にまつわるリスクを軽減し、印刷プロセスが全体的にさらに持続可能なものになる。デジタルへの移行が当社にとって重要なプレート事業に影響を与えることは理解しているが、当社、お客様、そして地球が長期にわたって健全性を確保するために、デジタルへの移行は正しいことだと考えている」と語っている。

 「今後も『環境』『エネルギー』『資源』『BCP』などの観点を組み合わせたサステナブルソリューションを訴求していきたい」(中川本部長)


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PROSPER ULTRA 520 プレス


コダック社のサステナブル経営

 同社が発行する「サステナビリティレポート」は、そのパフォーマンスを可視化して開示している。

 コダック社が実践するサステナブル経営については、以下のような内容が示されている。

【環境】
▽廃棄物...全世界のコダック拠点で廃棄物ゼロを目指し、2025年までに、埋め立ておよび焼却からの廃棄物転換率99%を全拠点で達成する。
▽温室効果ガス...全世界の事業における温室効果ガス排出量を2025年までに25%削減。
▽水...コダックの全世界の事業における水の消費量を2025年までに25%削減。
▽リサイクル...コダックが外部排出源から回収する使用済み溶剤の量を2025年までに3倍に増加。

【社会】
▽安全性...2025年までに労働災害率を25%削減
▽ダイバーシティ/インクルージョン...Human rights Campaignの企業平等指数スコア100%を維持し、同財団が発表する「LGBtQ平等における最高の職場」リストへの掲載を継続

 「リサイクル」にある溶剤回収とは、製造工程で発生する廃棄物や副産物の溶剤から有用な原材料を抽出し、再利用のためにそれらを加工するプロセス。廃棄物が再利用されることで、エネルギー使用量、温室効果ガス排出量、廃棄物処理費用の削減に加え、材料の再利用や販売による天然資源保護や収益増など、あらゆる人々が恩恵を享受できる。

 Eastman Business Parkのコダック施設では、製薬、医療、化学薬品製造の業界の顧客から供給される、最も一般的な5種類の工業用溶剤を再処理。この回収プロセスには最高水準の規格が適用され、最終的にはほぼ未使用の状態に近い原材料が生成される。2016~2021年度末にかけて、コダックのこの溶剤回収事業は65%の成長率で拡大している。

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