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ジップ、年間3億通を封入発送〜独自のダイレクトマーケティング事業展開

フルカラーバリアブルDM事業を強化

 「感動で繋がる」──年間3億通にのぼる郵便物の発送代行業務を手掛ける(株)ジップ(本社/岡山県瀬戸内市長船町長船301-11、三鍋英治社長)。通販事業をトータルにサポートする「ダイレクトマーケティングソリューション企業」として知られる同社だが、三鍋社長は、その一角を担うDM事業について「今後は、よりセグメントされることで多くの企画が必要になり、そこに新たな需要が生まれる」と指摘する。今回、その需要に対し、フルカラーバリアブルDMの新たな価値訴求に乗り出した同社の取り組みを中心に取材した。


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トナー機7台と輪転型インクジェットプレス1台を設備

ベネッセ支援の物流ノウハウに強み

 同社の設立は1991年。「進研ゼミ」「進研模試」のDMや学習教材発送を主業務とする物流サービス企業として、(株)ベネッセコーポレーションと日宝綜合製本(株)の共同出資により誕生した。以来、封入・ラッピング業務を主体とした物流支援事業で大きな成長を遂げ、ここで培った物流基盤をベースに、受注支援(BPO)や販促支援分野にもその守備範囲を拡大。現在は、通販事業をトータルにサポートする「ダイレクトマーケティングソリューション企業」として知られる存在である。設立当時14名だった従業員も、いまや正社員460名、契約社員・パート社員などを含めると1,800名超のスタッフを擁する組織へと成長している。

 全国に22の事業拠点と5つの営業拠点を展開する同社。これらから発送されるDMは、なんと年間およそ3億通におよぶ。ベネッセの仕事をはじめ、健康食品や化粧品、量販店、IT関連などの発送代行業務も手掛ける。

 これら物流支援事業を支えているのは、ベネッセの発送代行で培った豊富なロジスティクスノウハウである。教科書、進度、地域、男女、選択別など、十数万通りに及ぶ細かなセグメントにも、最新鋭の機器とIT技術で対応。多種多様なメーリング機器を有機的に結び付けるだけでなく、フィルムインサーターやサンプルフィーダーなどは、自社で独自開発しているのも特筆すべき点だ。

 しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の影響は、やはり同社の受注構造に変化をもたらした。総合通販の伸びに比較し、単品通販商品の発送量が伸び悩む中で、クライアント側ではコスト削減を目的に、ゆうパックや宅急便での発送を、ポストインタイプのサービスであるゆうパケットなどへの切り替えを進めた。

 「ゆうパケット化で売上全体の約2割を占める運賃の減少による影響を受けている一方で、ゆうパケット送付商品の封入封緘の自動化によるコスト削減も進めている」(三鍋社長)


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三鍋 社長

DM企画への期待の高まり

 メーリング、商品発送といったロジスティクス分野に基づく顧客データ管理やデータ入力はもちろん、同社の事業領域は現在、メーリングから派生するDM制作や販促企画、あるいは商品発送から派生するコールセンターやBPOへと広がり、これらを横断的に展開する事業が、同社が標榜する「ダイレクトマーケティングソリューション」だ。

 なかでも、CRM特化型の企画・制作では、個性的なDMを提案できるのも、封入現場を知る同社ならではの強みである。通販会社でDM企画に携わっていたスタッフを中心に7名で組織し、開封率アップの施策やレスポンス獲得に関する分析・提案を含めた企画・制作・印刷・発送までをワンストップで提供している。いまでは外部で成功したDMのノウハウをベネッセ側にフィードバックして提案し、採用されている。例えばメーラー系の仕事で、小口を段々に圧着して1枚ずつ剥がして見られる8頁物のDMがある。定形外ではあるが制作は封書より安価で、しかも充分な紙面を確保できる。また、型抜きのメーラーなどの採用実績もある。

 DMについては、コロナ禍におけるコスト削減施策として、封書からメーラーへの移行が顕著だったという三鍋社長。「確かにDM全体としてはデジタルに置き換えられている部分もあり、よりターゲティングが進むことで通数は減少しているように感じるが、DMの企画数そのものは決して減っていない。ここにきてDM企画への期待の高まりを感じる」との見方を示している。

フルカラーバリアブルDMの価値訴求

 「今後は、よりセグメントされることで多くの企画が必要になり、そこに新たな需要が生まれる」と語る三鍋社長。その象徴とも言えるのが、デジタル印刷によるフルカラーバリアブルDMの需要だ。

 「まず、企画に費やす時間を確保するために制作納期を短縮したいというニーズがある。当然、コストは1〜2円だったものが10〜20円になるため、フルカラーバリアブルDMの価値を理解いただく必要があるが、その応答率や購買額に一定の効果が見られるため、継続して発注いただくケースが多い」(三鍋社長)

 さらに毎日発送されるデイリーDMでは、印刷物を在庫する必要がないメリットが大きく、封筒まで含めてデジタル印刷が活用されているという。環境影響低減の取り組みにもなっている。


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個性的で機能的なDMのサンプル

 同社では、トナー機7台と輪転タイプのインクジェットプレス1台を設備しているが、ターゲティング広告手法がさらに広がりをみせる中で、輪転タイプのデジタルプレスを更新。来年2月の稼働を目指して、高速連続用紙インクジェット・プリンティング・システム「RICOH Pro VC70000」を導入し、3月から商業ベースでの稼働開始を目指している。その狙いは「フルカラーバリアブルDMの高解像度化」だ。

 「これまで解像度の問題で食品などのDMには使えなかったデジタル印刷の高解像度化をはかることで、従来の1.5倍のプリントボリュームまで引き上げる計画である。クライアントは、これまで『何をフルカラーバリアブルにすれば良いのか分からない』という状況だったが、顧客情報もより整理され、データのハンドリング技術も向上する中で、高解像度フルカラーバリアブルへのニーズは高まると確信している」(三鍋社長)

 「DMの企画数が増えている」。ここがポイントである。さらにデジタル販促が進めば進むほど、紙DMとのメディアミックスの効果が高まり、紙DMのマーケティングツールとしての価値はより高まるだろう。同社では現在、マーケティングオートメーション(MA)にも注力し、よりターゲティングした中で、1通当たりの単価を上げていくことをひとつの戦略としているようだ。

 DMを含むメーリング事業において、印刷会社は同社にとって「クライアント」であり、「協力会社」でもある。今後もメーリング事業において高度な技術とノウハウを誇る同社の「印刷会社のパートナーとしての機能」に期待が持たれる。

「健気な努力家であり続ける。」

 高水準の個人情報セキュリティとトレーサビリティに強みをもつ同社。ただ、三鍋社長が強調する同社最大の強みは、ずばり「人」である。「人が成長しただけ会社が成長する。そのベースとして大切なのは、5Sと礼儀正しさを学び実践することである」(三鍋社長)

 同社では、「互学塾」と銘打ち、三鍋社長主催による勉強会を月1回開催し、いまでは78回目を数える。これは未来の自社の方向性を従業員と共有することを目的に開かれているもので、三鍋社長は参加者それぞれから3つの質問を受け付け、それに答える。会社という組織の中で人が成長していく過程において、このようなフラットなコミュニケーション「共育」も有効なのだろう。

 また、2年前からはDXへの取り組みとして、事務処理のオートメーション化(RPA化)を推進する「アルパカワーキンググループ」と、AI活用に取り組む「まなびあいワーキンググループ」が活動を行っている。

 「アルパカワーキンググループ」では、各部署でRPA化できる業務を洗い出し、開発部のSEとともにそれを具体化。結果として、その1/3がRPA化に成功し、年間約600万円のコスト削減に成功。また1/3をツールの採用で解決し、年間約800万円のコスト削減を達成している。

 さらに、「ジップキャンパス」という名称で、学習プログラムも展開。内容としては、実務に関する郵便法や技術的な勉強会のほか、貸借対照表の見方や原価計算の仕方、あるいは投資や子育てに関するプログラムなど多岐にわたる。

 一方、礼儀正しさやビジネスマナーを学ぶ「共育会議」という取り組みも実施。同社では従業員の学びの機会として、働く時間の1割を学習時間にあてるよう、「共育制度」を実施しており、これがまさに同社の「成長エンジン」となっている。

オペレーションノウハウの事業化を模索

 今後の事業の方向性について三鍋社長は、「企業のあらゆるオペレーションを代行できる会社を目指す」と語る。前記のRPAや情報セキュリティのノウハウをはじめ、5S活動における指導力や解決手法、あるいは人事管理や総務業務のBPOなど、これまで自社で培ってきた様々な業務のオペレーションノウハウの事業化を模索している。

 「封入という我々のベースの事業に派生する圧着やメーラーについては、着実にその事業領域を拡大していけると自負している。これに加え、これまでダイレクトマーケティングソリューションで培ってきたノウハウは、中小企業のインフラ整備に応用できる部分が多い。このノウハウのマネタイズを視野に入れている」(三鍋社長)

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