コームラ、オールデジタル印刷化で業績V字回復 - FFGS「最適生産ソリューション」先行事例
付加価値経営で「余力」創出〜スキルレス化で品質安定担保
富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ(株)(辻重紀社長、「FFGS」)が昨年から提案する「最適生産ソリューション」は、オフセット印刷とデジタル印刷の共存を始めとした、生産環境全体の最適化により生み出した「余力」を再分配するという考え方にもとづくもので、「DX(Digital Transformation)」実現への期待を前提に、企業の持続的な成長へのアプローチをメソッド化している。今回、その先行事例とも言える(株)コームラ(岐阜市三輪ぷりんとぴあ3、鴻村健司社長)のドラスティックな経営変革を取材した。
昨年7月、富士フイルムの「グラフィックシステム事業部」と富士フイルムビジネスイノベーション(「富士フイルムBI」、旧富士ゼロックス)の「グラフィックコミュニケーションサービス事業本部」が統合され、富士フイルムに「グラフィックコミュニケーション事業部」が設立された。
同社は、この事業統合で目指す「印刷業界への価値提供」に向け、新たなソリューション「最適生産ソリューション」を提案する。
これは、客観的な分析から印刷会社が抱える本質的な課題を見える化し、その課題を解決に導く「生産改革」と、そこで生みだした経営資源の「余力」を企業の「成長戦略」に再分配することで印刷会社の持続的な成長を支えるもの。デジタルソリューション営業部の鈴木重雄部長は、「従来の仕事のやり方をしていると、経営資源である時間・人材・設備・経営資金を不用意に浪費してしまう。そこをデジタル技術の活用により改善できれば、そこから潜在的な経営資源が顕在化する。これがソリューションの根幹」と説明する。
さらに、ここで抽出した経営資源を成長戦略に再分配していくことが重要になる。そこで顧客基盤や会社が持つ情報、また企業文化やブランドといった無形財産などを絡ませて成長戦略に仕立て上げていくことで、はじめてDXが完成するというわけだ。
計12台のPODが稼働
投資の原資は「足元の改善」から確保
同社の創業は昭和12年。軍関連の事務用品を扱う鴻村維一商店として産声をあげた同社は、その後、官公庁をはじめ国立病院や大学へと販路を広げ、約4,000アイテムにもおよぶ伝票・帳票類の印刷物を中心とした通信カタログ販売で飛躍的な成長を遂げる。
そんな同社のひとつの転機となったのが大学関連事業の強化だ。競争激化の様相を呈した約10年前、それまでも強固な事業基盤のあった大学向けの事業にさらなる経営資源を投入。Web制作やアンケート調査、印刷、イベントグッズなど、大学関連の様々な商材をワンストップで提供することで企業価値向上を実現。さらに、この実績をもとにWeb制作、印刷物、看板・案内板(大判印刷)、会場設営/映像機器・PC受付手配、発送代行、粗品・備品手配など、学会運営に関わるあらゆるアイテムをパッケージ化した「学会スマート」を商品化し、これまでに累計365大会をサポートしている。
同社は、現在最も注力するこの学会サポート事業、Web・システム事業、印刷事業の3つを柱とし、これらの事業すべてにおいて大学向け事業(8割)に軸足を置いた事業構造になっている。
ドラスティックな営業・生産改革
コームラが、「付加価値経営」に大きく舵を切ったのもおよそ10年前。売上が減少する危機感の中で「セルフマネージメントの強化」「営業プロセス管理の徹底」「付加価値重点営業」という3つの重点施策を掲げ、当時専務だった鴻村社長主導のもとで営業改革が遂行された。
一方、生産改革ではオフセット印刷からオンデマンド印刷(POD)へのシフトを試みた。その理由について鴻村社長は「当社には職人といえる人材がいなかったため、オフセット印刷でのクレームが多かった。その解決策としてPODへと大きく舵を切った」と説明する。
2014年の社長就任を機に、印刷工程のデジタル印刷化推進を宣言した鴻村社長。単なるデジタル化ではなく、変革の根拠を定量的に示すことを重視し、オフセット印刷では刷版代・丁合い作業人件費・損紙などの目に見える範囲での原価、PODではカウンター代・トナー代・保守料金などの原価をジョブ単位で比較検証した上で、移行可能な案件の洗い出しから始めた。結果、出力機自体の生産品質・能力向上と様々なメディアへの対応が進むのと比例する形でプリントボリュームも増加。PODの守備範囲を1,000部程度にまで引き上げることで順調に移行は進んだという。
話は少し戻るが、同社は1997年に岐阜県1号機となる「ドキュテック135」を導入している。「当時はまだ印刷品質はもちろん、波打ちの問題などもあって苦労を強いられた」と当時を振り返る鴻村社長。その翌年の1998年に「ドキュメントサービスフォーラム」(旧富士ゼロックスのユーザー会)でアメリカの印刷会社を視察した際、フルデジタル印刷によるビジネスモデルの可能性を感じ取ったという。
それから約20年が経過した2019年、フルデジタル印刷化に踏み切った。その決断を後押ししたのがプロダクションプリンター「Iridesse Production Press」の登場だったという。
「Iridesseの品質ならばPODの域を越えたプロフェッショナルなプリントと言える。この品質ならばオフセット印刷は必要ないと判断した」と鴻村社長。カラー機1台、モノクロ機2台の増設を機にオフセット印刷機を全廃し、現在は、カラー機3台、モノクロ機9台、計12台が稼働している。
「オールデジタル」による生産環境のメリットについて、鴻村社長は次のように語っている。
「まず刷版、丁合、色合わせの工程を省略できる。また面付け工程でも、オフセットとPODの2パターンを考慮する必要がなく、しかも富士フイルムBIのソフトウェア『FreeFlow Core』を使って面付け作業を自動化できる。さらにオフセットは1台に1人だが、PODは4台を1人で稼働できる。さらにもっと細かな話をすると、紙のサイズや種類を考える手間が省け、発注業務を簡略化できる」
これらがすべて「付加価値」になると考えれば、その効果は容易に想像できるだろう。鴻村社長自身も「利益率の向上は予想以上だった」と振り返る。
これらドラスティックな営業・生産改革が同社の業績をV字回復へと導いた。新型コロナの影響で10期連続の増収は叶わなかったものの、印刷需要が低迷する中で加工高53%、営業利益率5%以上を弾き出すなど、着実に成長するとともに骨太の経営基盤構築を達成している。今後はさらなる自動化を進めるべく、自動スケジューリングを目的に、富士フイルムBIの印刷工程管理システム「Production Cockpit」の検証にも乗り出している。

