山崎紙工、御朱印帳の量産体制確立 〜 オリジナルブランド「京都紫音」も展開
山崎紙工(株)(本社/京都市上京区、山崎正純社長)は、昭和25年にカレンダーなどの紙加工業として創業。以来、書籍・雑誌、教科書教材などの製本事業をメインに、御朱印帳や紙素材による小物の製作などで事業を展開してきた。ただ、出版物の製本は現状維持が精一杯という状況。このような中、同社が一筋の光明を見出したのが、約5〜6年前に起きた御朱印帳ブームだ。急増する需要に対応するため、工場改革で生産性を4倍に向上させるとともに、オリジナルブランド「京都紫音」を展開。さらにコラボ商品の企画などで差別化を図り、御朱印帳を同社の主力事業に成長させた。
工場改革で生産性が4倍に向上
御朱印帳の製作はその特殊な構造上、機械による完全な自動化は難しい。断裁、折りの工程は機械化できるが、大部分の工程は手作業によるものだ。御朱印が裏移りしないよう、中が空洞になるように2枚の紙を貼り合わせ、蛇腹にして糊付けするなどの工程は職人による高度な技術が必要になる。
同社では数年前に工場改革するまで、これら一連の製作作業を1人1人が1冊ずつ、最初から最後まで仕上げていくという方法をとっていた。しかし、これでは生産性にも限界があり「1ヵ月に5,000冊程度しか作ることができなかった」と山崎社長。従来はこれでも受注に対応できていたが、5〜6年前に起こった御朱印帳ブームにより、従来の生産方法では急激に受注が増加した御朱印帳の製作が間に合わなくなった。そこで、同社は公益財団法人 京都産業21のコンサルタントに相談。約1年がかりで工場改革に乗り出した。
まず、最初に行ったのは、作業現場の徹底した整理である。これにより作業スペースが確保され、通路の確保や動線を改善した。山崎社長は「中紙の糊付け、表紙貼り、組立などの各工程の動線を作り、御朱印帳製作のライン化を実現した。これにより、従来と同じ手作業ながらも生産性は4倍に向上した」と話す。

また、作業状態の「見える化」が進んだことにより、生産工程の管理もしやすくなった。これらの取り組みにより、現在は年間20〜25万冊以上の生産に対応することが可能になった。
ウルトラセブンなどのコラボ商品で差別化へ
そしてもう1つ、同社が御朱印帳を自社の主力事業とするために取り組んだのが、御朱印帳のオリジナルブランド「京都紫音」の開発だ。山崎社長は「御朱印帳ブームにより、神社や仏閣からの大量の御朱印帳を下請けで受注できるようになったが、御朱印長の価格は昔から変わらず、さらに下請け受注だと価格も取ることができない。そこで約4年前、下請け受注オンリーの体質からの脱却を図り、御朱印帳のオリジナルブランド『京都紫音』を立ち上げ、楽天などでの販売を開始した」と経緯を説明する。ちなみに、ブランド名の「紫音(しおん)」は、先代社長の山崎喜市会長の孫娘さんの名前からとったものだという。
そして、オリジナルブランド「京都紫音」の販売促進のための戦略として開始したのが、他社とのコラボ企画による商品の展開だ。その第1弾となったのが「ウルトラセブン」とのコラボによる御朱印帳である。山崎社長は「ギフト・ショーの視察に行ったところ、『匠フェア』というものが開催されていた。そこに匠商品とのコラボ商品が置かれてあり、TSUBURAYAさんにウルトラセブンの御朱印帳を作ってみませんかと提案したところ興味を持っていただき、ウルトラセブンの御朱印帳を製作することになった」と経緯について話す。ウルトラセブンとコラボした御朱印帳は、全国的なファッション雑誌にも取り上げられ、大きな宣伝効果があったようだ。
また、京都市役所からの話で、大河ドラマ「麒麟がくる」とコラボした御朱印帳も製作。これはデザインが格好いいと評判の商品で、楽天のデイリーランキング1位も獲得した商品となった。
京都文化、紙素材にこだわった商品を展開
そして「伝統ある京都文化を大切にしたい」(山崎社長)との思いから企画したのが、振袖の型染め屋とコラボした御朱印帳である。
「着物の型染め職人は高齢者しか残っておらず、京都でも10人ほどしかいない。それを絶やさないように着物の布を表紙に使用した御朱印帳を提案したところ、一緒にやりましょうということになった」(山崎社長)
通常、御朱印帳の価格は1,000円〜1,200円程度であるが、この御朱印帳は5,000円もするという高価なもの。それでもイベントに出せば売れているようで、コラボ企画による商品は、御朱印帳ビジネスの牽引役となっている。
「京都紫音」ではこのほか、表紙に伊勢の桧を使用した御朱印帳、懐かしい手触りの活版印刷紙による御朱印帳、光沢により高級感を演出できる漆紙を使用した御朱印帳などを販売している。
また、同社ではこれまで、紙素材にこだわった商品を製作してきた。過去には強度のある紙素材を使用した「がま口バッグ」なども作ってきたという。
今後の展開について山崎社長は「アニメ系のイラストレーターとコラボした商品の企画を進めている。オタク向けのキャラクターとコラボした御朱印帳など、今後もコラボ企画による戦略で差別化を図り、勝ち残っていきたい」と話す。現在はコロナ禍で御朱印帳の受注は厳しい状況であるが、アフターコロナを見据えて準備を進めているところだ。今後の展開に注目したい。
