共同印刷工業、組版技術と一括受注で出版社サポート
「学参」実績で事業拡大〜「紙」でなければならないものを…
「描く、組む、刷る」─共同印刷工業(株)(本社/京都市右京区西院清水町156-1、江戸孝典社長)の創業は昭和23年。京都市上京区、通称「西陣」と呼ばれる地域において、江戸社長の祖父・江戸夘一郎氏が製本会社と出版社の支援を受けて立ち上げた個人商店「三共社」がその社歴の始点となっている。当時「活版書籍印刷業」として産声をあげた同社はその後、昭和27年に株式会社に改組して共同印刷(株)を設立。そして昭和45年に本社・工場を右京区西院久田町に新築、移転するのにともない、現在の「共同印刷工業」に社名変更し、平成19年に本社・工場を現在地に新築、移転している。
出版社が印刷会社に求めること
「京都は経済規模のわりに出版社が多い町」と話す江戸社長。その地で戦後間もない時期に創業した同社の当時のメインクライアントは、大学・学部別の大学入試過去問題集、いわゆる「赤本」で知られる教学社と、人文・社会科学の学術出版で知られるミネルヴァ書房。時を同じくして創業されたこの2社の成長とともに同社も事業を成長させてきた。

専門書や学術書、学会誌など、いわゆる「文字物」を得意とする同社の強みは、やはり「組版技術」。ただ江戸社長は、「書籍印刷を手掛ける会社において高いレベルの組版技術はある意味『当たり前』。活字から電算写植、DTPもしかり、活版印刷からオフセット印刷もしかり、その手段は変わろうとも最終成果物である『書籍』の本質は変わらない。いま印刷会社が出版社から求められることが変化しつつある」と語る。
これまで出版社は、紙を手配し、印刷会社、製本会社にそれぞれ発注する分割発注がほとんどだったが、最近ではその管理担当者を社内に抱えるコストを考慮し、印刷会社に「一括発注」するケースも増えているという。同社でもこれら工程の一括受注をはじめ、保管やピックアップ、個別配送などの業務までを請け負い、出版社へのサポート体制を充実させている。
また、前工程においても、以前は出版社の編集者からの支持通りに組版すればよかったが、いまではデザインや編集でもサポートし、その人材も社内に置いている。「原稿をドサッと入稿してもらえば本で納める。出版社は印刷会社にそんな機能を求めているように思う。近年では電子書籍への対応はもちろん、小規模ながらも出版にかかわる様々な工程で出版社のお手伝いができる体制を整えている」(江戸社長)
生産工程の抜本的な見直しへ
一方、同社の社歴において最大のターニングポイントとなったのは、淡路島にある子会社・(株)エーシーティー(兵庫県淡路市大町畑584-1)の設立だ。およそ30年前、得意先が淡路島の印刷会社に仕事を発注していたが、その会社が廃業し、そこに発注していた分の仕事を「共同印刷工業でやってほしい」と依頼があった。ただ、製造キャパシティ的に難しいと判断した同社は、廃業した淡路島の印刷会社の社員を引き継いで新会社を設立。これがエーシーティーだ。
「当時、大学への進学率が伸び、学習参考書の需要も旺盛だった。子会社設立をきっかけに受注点数も大幅に増加した」(江戸社長)
現在同社が所有する印刷機は、菊全4色機が2台、同2色機が1台、四六全2色機が1台、そして子会社のエーシーティーにも菊全4色機が1台ある。繁忙期にはこれら5台の印刷機をフル稼働させないと仕事が回らない状況だという。一方で、印刷オペレータの人材不足という問題に直面する江戸社長は、出版物の短納期対応なども考慮し、生産を京都に集約したいと考えている。

ただ、4台体制では繁忙期を乗り越えられない。しかも「働き方改革」にも取り組む同社では、労働時間に制約があり、「頑張れば...」というレベルではない。当然ながら新たな設備投資を視野に入れている。「当社の平均受注ロットが2,000〜3,000部であることから、印刷準備時間の短縮が『生産性向上』の鍵になると考えている」(江戸社長)。その他、小ロット対応のオンデマンド印刷機と、それに付随する無線綴じ機、三方断裁機、ラミネータも設備。印刷機の更新を検討していく中で、生産工程全体の抜本的な見直しも進めたい考えだ。
「私は現在44歳。ある人から『人生であと2回は大きな企業変革を行うべき』とアドバイスをもらった。『あと2回もチャンスがある』と前向きに捉え、実践に移していきたい」(江戸社長)
学参物を手掛ける同社にとって、学習環境の変化は大きな懸念材料。京都の公立小学校でも「GIGAスクール構想」の実現に向けた動きがある。このことについて江戸社長は「教材が紙だけではなくなる。ならば我々は『紙でなければならないもの』を創造していくことも必要だと思う。そのためにも今後は出版社の企画段階から関与できる体制を強化していきたい」と語っている。
同社では、自費出版を支援するサイト「eブックカフェ」(http://www.ebookcafe-kyoto.com)の運営のほか、自らが企画するイベント「FRAME」の定期開催や書店とのタイアップ企画イベントへの参画など、書籍制作のクリエイティビティを支える情報やコミュニーションの場を提供している。「書籍の制作にかかわる人々を応援し、その人の輪が広がるような活動を今後も続けていきたい」(江戸社長)
