出版の「合理性」急務[ミューラー・マルティニジャパン 五反田隆社長に聞く]
紙の生産集約と人がトリガーに
消費者の嗜好が多様化・細分化される中で、当然のことながら印刷製本分野でも小ロット・多品種化が進んでいる。この需要に対して生産側には「合理性が欠けている」と指摘するミューラー・マルティニジャパン(株)の五反田隆社長。この状況は「もはや限界に達しつつある」とし、従来のオフセット印刷も必要だが、デジタル印刷・製本技術を活用した生産体制の効率化への早期着手を訴えている。今回、五反田社長に、その背景について語ってもらった。
マーケティングそのものが「マス」から「オンデマンド」「ブック・オブ・ワン」に移行する中、とくに欧米における印刷製本工程はデジタル対応によって「ローカル生産」「サテライト生産」「マルチサイト運用」へと移行し、紙媒体の価値を維持している。ミューラー・マルティニはdrupa2016において全機種を「デジタルレディ」とし、この市場を後押ししてきた。
一方、アジアではまだまだ高生産機が主流であり、とくに日本における従来のトラディショナルな設備ややり方は「合理性に欠けている」と言わざるを得ず、もはや「限界」に達しつつあると感じている。日本の書籍製造頁数は、中国、米国、ドイツに次いで世界で4番目。ピークだった1996年〜1997年くらいに設備された高生産機がまだ稼働しており、この余剰生産能力が「合理化への足枷」ともなっている。
そんな状況の中で、日本におけるデジタル生産への流れを後押しする要素として「紙需要減少にともなう品種の統合」「人材確保」「返本率改善」という3つのトリガーがあると考えている。
印刷媒体として最も使用される新聞用紙の国内出荷量は40ヵ月以上連続で減少を続け、印刷・情報用紙も2年以上にわたって減少した。こうなると製紙メーカーは抄紙機の稼働を止め、より生産品種を集約することになる。つまり「○○製紙の○○工場産の○○という紙で」という指定はできなくなる。「紙がない、選べない」という状況は、とくに出版分野で大きな影響が出てくる。出版社や作家の『こだわり』を通せば本の値段は倍になるとなれば、さすがに合理性を選択するはずである。
ここで紙の種類が集約され、さらに小ロット化が進むとなれば、「紙を選ぶ」とされてきたデジタル印刷生産へのひとつの道筋にはならないだろうか。いずれにせよ、印刷会社にとってはオフセットでもデジタルでも生産効率は飛躍的に向上する。「紙の生産が減る、品種が減る」、これは今後の印刷製本業界の動向に大きく関わってくる。
2つ目が「人材確保」という視点。土日勤務、夜勤、休日が不定期、残業が多い、手が汚れる...。今やこのような会社ばかりではないものの、これらのイメージが残る印刷製本業界に若者は魅力を見出せないのも無理はない。これは大きな経営リスクであり、非常に深刻な事態である。
この解決策としてデジタル印刷生産があると考える。オフセットでは特殊技術が必要になり敬遠されがちな上に、技術の継承や教育にも時間がかかり、離職するとまたゼロから...。この「人」を理由にオフセット印刷より属人的な要素が少ないデジタル印刷を導入した印刷会社も少なくない。
そして3つ目が「返本率」だ。昨年9月、雑誌(週刊誌)の返本率が50%を超えた。書籍でも30%以上であり、さすがに今年はここにメスが入るのではないだろうか。結果、紙の需要は減少し、紙の品種も減ることに繋がる。これもデジタル印刷生産導入へのひとつの道筋となる。
出版は古い商習慣によって製造や流通でムダが多く、明らかに合理性に欠けている分野。これも限界の域に達している。もちろん、これをコストと考えれば利益率は飛躍的に高まり、これをリーズナブルな本として消費者に還元できれば出版文化に大きく貢献できる。SDGsの観点からも出版業界の合理性に期待している。
これら3つの視点は、現行の設備では実現が難しい。その選択肢としてデジタル生産への移行、あるいはオフセットとデジタルをうまく融合した生産設備の構築が急務だと考える。
フンケラー社がより「合理化」を推進
今年2月24〜27日の4日間、スイス・ルツェルンでデジタル印刷ショー「Hunkeler Innovationdays 2025」が開催される。ミューラー・マルティニは、2023年12月に、このフンケラー社を傘下に収めており、今回が買収後初のInnovationdaysとなる。
ミューラー・マルティニは連帳から本を作る機械が主体である一方、フンケラー社は「デジタル対応」に特化し、商業印刷分野からブックブロックまで幅広い技術と製品ポートフォリオを持ち、これまで述べてきた印刷製本分野の「合理化」を推進する上で欠かせない存在となっている。
日本市場におけるフンケラー製品のサポート・メンテナンスもミューラー・マルティニジャパンが引き継いでおり、すでに販売した機械もある。春頃にはフンケラー社の加工機を本社ショールームに展示する予定で、今後も時代に合わせたミューラー&フンケラーの製品を印刷・製本会社に提供していく考えだ。
今回のInnovationdaysは、drupa後ということもあり、より具体的な展示内容となる。前回まではプリンタと加工機がオフライン状態での展示が多かったが、今回は展示会場を工夫することでインラインでの展示が増え、最終製品をイメージし易く展示される予定である。より具体的に投資を考える印刷会社にとって自動化、無人化、省人化といったテーマが焦点となるだろう。
また、Innovationdaysが開催されるルツェルンからミューラー・マルティニの本社は電車で30分ほどの場所にあることから、ミューラー・マルティニの工場見学も企画している。ぜひご来場いただきたい。