大和出版印刷、「神戸派計画」の進化と社員主体の組織へ
武部 俊 新社長に聞く
大和出版印刷(株)(本社/神戸市東灘区向洋町東2-7-2)は、2024年11月1日付で武部俊氏が代表取締役に就任した。先代である武部健也相談役の後を継ぎ、創立75年以上の歴史を誇る同社の4代目(5人目)として新たなスタートを切った武部新社長は、営業部門で培った経験を活かしつつ、「社員が自発的に考えて動く風通しの良い組織を目指したい」と意気込みを語る。ステーショナリーブランド「神戸派計画」のさらなる進化への構想、業界全体の未来を見据えたビジョンを打ち出している。
武部俊新社長は1986年6月16日生まれで現在38歳。大学卒業後にシャープ(株)で営業職としてのキャリアをスタート。その後、2013年に大和出版印刷に入社し、主に営業部門で経験を積み、同社の基盤を支えてきた。外部企業で得た経験について武部社長は「大手家電メーカーで働くことで、業界や仕事の進め方などを学ぶことができた」と振り返る。
武部社長が同社に戻るきっかけとなったのは2013年、メインクライアントを担当していたベテラン社員の退職がきっかけだった。「タイミングとしては自分の決断というより、背中を押された部分が大きいが、ここからが自分の新しい挑戦だと感じた」と振り返る。入社後は営業活動を中心に、徐々に現場管理や経営にも携わり、次世代を担う準備を進めてきた。
「営業を中心に現場を経験してきたことが、社長職でも役立つと考えている。これからも現場感を大切にしつつ、経営の全体像を見ながら、新たな挑戦に取り組んでいきたい」(武部社長)
印刷事業とステーショナリーブランド「神戸派計画」との連動強化
同社が展開する自社ブランド「神戸派計画」は2011年11月に先代の武部健也相談役が立ち上げたステーショナリーブランドで、現在は30シリーズ以上のアイテムを展開している。その中心的な商品といえる「GRAPHILO(グラフィーロ)」は、万年筆の筆記特性に合わせたペーパーとして多くのファンを魅了してきた。「神戸らしさ」をテーマに、「書く」という行為を楽しむための製品を提供し続けている。
「万年筆の書き心地にこだわったGRAPHILOは、紙質の改良を重ねながら進化を続けている。また、神戸派計画の商品をきっかけに、既存の印刷事業ともシナジー効果を生み出せるように取り組んでいる」(武部社長)
武部社長は、文具事業と印刷事業の連携を強化することで、新たなビジネスチャンスの創出を目指していく考えで、同ブランドが長年の投資を経て、ようやく利益を生む事業に成長した背景には、先代社長の「製造業としての誇り」があったという。初期段階では社内から反発もあったが、今ではブランド価値が認められ、社内外からも高い評価を得ている。
印刷業界全体への貢献を見据えて
大和出版印刷の相談役である武部健也氏は、兵庫県印刷工業組合の現役理事長として業界発展に尽力している。長年にわたり培ってきた業界内のネットワークとリーダーシップは、同社の経営にも大きな影響を与えている。武部相談役が築き上げた地盤の上に立つ武部俊社長は、業界全体の未来を見据えた取り組みを進めている。
「相談役は業界への愛情が非常に強く、その影響を受けた私も、印刷業界全体を支えるような会社経営を目指したいと考えている。私たちの取り組みが業界の持続可能な成長に寄与することを信じている」(武部社長)
例えば、環境問題に配慮した取り組みやSDGsに基づいた事業展開は、同社だけでなく、印刷業界全体の課題解決を意識したものである。廃材を活用したアップサイクル製品の開発や、エシカルペーパーの導入はその代表例である。例えば、端材を小さなカードやノベルティとして販売することで、新たな収益源を確立している。「捨てるはずだったものが価値を持つ瞬間を作り出せるのは印刷業界の強みである」と武部社長は強調する。
さらに、武部相談役のもとで育まれた組合活動での経験や、業界内での信頼関係は、同社にとっても大きな資産となっている。武部社長はこれを活用し、印刷業界の未来を支えるリーダー企業として、積極的な提案を行っていく方針を示している。
風通しの良いオープンな社風を目指す
武部社長は、現代の中小印刷業経営には時代に合わせた、社員全員が主体的に考え、行動できる組織文化が求められると語る。
「社員全員が『自分の会社を良くしたい』と思えるような環境づくりを目指している。そのためには情報を積極的に開示し、全員で課題を共有することが重要である。経営者1人でできることには限界があり、社員が100%以上の力を発揮できる土壌を作るのが私の役割だと考えている」
また、社員の離職が相次いだ過去の経験を教訓に、社員同士のコミュニケーションを重視しており、新旧メンバーが協力し合える風通しの良い職場環境の構築にも注力している。「社員が自発的にアイデアを出し、それを実現できる会社にしていきたい」との想いを語る。
印刷業界の明るい未来に向けた思い
また、武部社長は印刷業界の将来について「紙という媒体は、時代が変わっても文化や情報を支える本質的な役割を担っている。デジタル技術が発展しても、印刷業界は『人が人に伝える』という不変の価値を守り続ける存在である。私たちも印刷業界の未来を切り拓くために柔軟に進化し続けていきたい」と話す。
創業から75年以上の歴史を持つ同社の新たな舵取り役となった武部俊社長のもと、同社は「社員全員が主役」という理念のもと、さらなる進化を遂げていこうとしている。それと同時に、印刷業界全体の未来を見据えた取り組みや、環境問題への挑戦を通じて、新たな価値を創造し続けていくに違いない。歴史と革新を併せ持つ同社の挑戦は、印刷業界に希望を与えていくだろう。