鈴木美術印刷、「PrintSapiens」で長年の夢を実現
印刷〜後加工をJDF連携、スムーズな工程計画で時間のロスを削減
小物・端物のカラー印刷を得意とする鈴木美術印刷(株)(大阪市東成区神路2-4-4、鈴木裕香社長)は、20年以上前からAccessを活用して作業指示書の電子化に取り組むなど、工程管理のデジタル化に先進的に取り組んできた。そんな同社が2000年代前半のpageで知り、その考え方に共感。「いつかは導入したい」と夢を抱いていたのが「JDF」による工程間の連携である。その後、他システムの使用を経た後、J SPIRITSの印刷業総合管理システム「PrintSapiens」を導入。3年目の現在、損益管理により従来の「どんぶり勘定」からの脱却に成功するとともに、長年の夢であったJDF連携により、生産性の大幅向上を実現している。
同社は1961年、大阪市西成区で創業。1964年、国産印刷機を導入し、印刷の生産を開始した。その後、1966年に生産性と品質向上を図るため、ドイツ・ハイデルベルグ社の印刷機を初導入。その後はハイデルベルグを中心に設備強化し、1995年には国内1号機となるハイデルベルグの最新SM52-4-P型4色機と、SM52-2-P型2色機を導入している。鈴木社長は「先代の時代から小物・端物を中心としているため、菊四サイズに特化した設備強化を進めてきた」。2023年春にもハイデルベルグの新型4色機を増設した。
小物・端物の少量多品種印刷など、大型の印刷機を保有する印刷会社にとっては面倒な仕事を中心に受注することで業績を拡大してきた。営業部長の青木育央氏は、自社の強みについて「少量多品種への対応。また、24時間体制により、短納期にも対応できることである」と自信を見せる。ただ、同社では受注点数が多く、管理が大変で、「本当に儲かっているのか?1点1点の採算が見えない」(鈴木社長)というのが従来の課題であったようだ。
同社は2002年頃に、Accessでは自社が求める原価管理ができないという理由から、他のシステムに乗り換え、18年にわたり使い続けてきた。しかし、実際のところは「当社の使い方にも原因があったかもしれないが、結局、Accessと同じような使い方しかできなかった」(鈴木社長)。そんな中、18年前に比較検討したシステムとして思い出したのが、JDFにも対応するという「PrintSapiens」であった。
そこで鈴木社長は、PrintSapiensで現実にJDFを実現しているという愛媛県の佐川印刷(株)(佐川正純社長)を見学。「まさに当社がやりたいと思っていたことを実現されていた」(鈴木社長)ことから、導入を決断。再度、幹部メンバーも見学させてもらい、理想型を共有した上で、2020年頃から営業が見積、作業指示書を作成して運用をスタート。2023年秋頃からは、JDF連携による運用も開始している。
同社は20数人の企業規模であるが、J SPIRITSの岡谷室長は「この規模でJDF連携までされているユーザーは非常に稀なケース。鈴木社長が思い描かれているビジョンに大きな感銘を受けている」と敬意を示している。
目的が明確になり、納期も正確な報告が可能に。JDFで生産性も向上
「PrintSapiens」を導入したことにより、見積、作業伝票、生産計画、印刷・加工の工程管理をスムーズに行うことが可能になり、時間のロスを削減。現場では印刷機のジョブ単位、台単位ごとに「時間軸なので、例えば午前中にこれとこれをする」など「目的」が明確に表示されるようになり、版や紙待ちの時間など、無駄のない動きができるようになった。
同社ではもともと、作業指示類などはデータ化されていたが、ジョブ内容が一行並んだリストを紙に出力して掲示していたため、都度ジョブが追加されても更新されず、版と紙が揃っているかを確認し、手あたり次第に印刷していくという状態であった。倉橋部長は「加工があるため、印刷は早めに取り掛かり、乾燥時間を確保するなど配慮できておらず、直前に刷って乾いてなくて裏付きのトラブルになったり、間に合わないなどといった工程間の段取りまで把握できてなかったところ、加工があるからこちらを先に、これは翌日でも大丈夫なので、残業はしなくて済むなど、効率化を図ることができた」と説明する。
また、オペレーターは手書きの作業日報がなくなり、その分生産作業に集中できるようになった。機械のスタート/ストップで正確な実績データを自動的に収集できるようになり、事務所だけでなく、現場にも大画面でPrintSapiensのモニターを表示し、作業の予定を誰でも確認できるようになるなど、多大な効果が表れているようだ。「将来的には、オペレーター単位の『小工程』で表示できるようにしたい。これにより、オペレーターの意識を上げていくためのツールにもなりえる」(倉橋部長)。
そして、ジョブごとに時間軸で表示されることは、営業にとってもクライアントとのやりとりに大きな効果を発揮している。青木部長は「足の長い仕事など、これまではクライアントにいつ終わるのかと聞かれても、正確に答えることができなかったが、時間軸で予定が入っているため、正確な日程を返答できるようになった」と説明しており、これによりクライアントの信頼向上にもつながったようだ。
一方、個々の営業としては「ごまかし」がきかないようになった。青木部長は「これまで営業が隠していた部分も見えるようになったため、他部署から『この価格で大丈夫?』と心配されることもあるが、これまでのようなどんぶり勘定もなくなったため、結果として会社には良い成果をもたらせるようになった」(青木部長)。採算の合わない案件については「できる限り、値上げしてもらえるよう価格交渉をするようになった」(青木部長)という。さらに「営業だけでなく、現場にもコスト意識が芽生えてきた」(倉橋部長)ようだ。
さらに、ハイデルベルグ社のプリネクトワークフロー、ホリゾンの製本ワークフロー「Pxnet」とJDF連携させることにより、「PrintSapiensの作業指示データをホリゾンの折機にスキャンして読み込ませることで、ジョブのセッティングに時間を要することはなくなった」(倉橋部長)。これにより、普段は印刷機を担当しているオペレーターが折機の操作を行うことも可能になり、属人化の解消にもつながり、大幅な生産性と作業効率の向上を実現している。
今後の目標は「単品損益管理」の実現。機能のフル活用で利益創出へ
PrintSapiensを導入する以前、営業が遅くまで残業するのは日常的だったという同社。それが今では「早い人は7時に帰ることもある」(鈴木社長)。見積書や作業指示書などの作成に時間がかかっていたが、一元データ活用ができ、必要なフォーマットに展開できるため、効率的に作業できるようになったことが大きいという。
長年の夢であったJDF連携も可能になり、次の目標は「実績データを分析して、誰がどれだけ利益貢献しているか個々の工夫や力量の把握、向上に役立てること」と鈴木社長。現在、これまでの実績を入力し、そのためのデータを蓄積しているところだという。鈴木社長は、「まだまだPrintSapiensの機能を使い切れていない」としており、同システムのメリットを可能な限り活用していくことで、さらなる利益創出を目指していく。
