FFGS、「最適生産」をよりリアルなソリューションに[安田庄司技術本部長に聞く]
「お客様に深く寄り添う」〜デジタル印刷市場の需要喚起へ
「一緒に答えを導き出す会社へ」--富士フイルムグラフィックソリューションズ(株)(山田周一郎社長、以下「FFGS」)は昨年4月、サービス部門の統合および社名変更を行い、保守・修理等の各種サポートを含め、一層幅広いソリューションをより最適な形で提案し、顧客ニーズに応えていく体制を強化した。2024年も「お客様に深く寄り添う」ことで、よりリアルなソリューションを目指し、業界との「共創」の関係を構築していく。今回、新年の幕開けに際し、FFGS・取締役常務執行役員の安田庄司技術本部長に、その「真意」をうかがった。
昨年は「新たな取り組みに一歩足を踏み出した年」
昨年の印刷業界を振り返ると、印刷生産金額ベースでは新型コロナの影響はほぼなくなり回復傾向にあるように感じます。もちろん、完全にコロナ前に戻ったわけではないが、コロナ禍において逸脱した下落に見舞われた印刷需要が、本来の需要に戻ってきたという感覚ではないでしょうか。
ただ、市場をトータルに捉えた場合はそうですが、商業印刷の中でも、コロナ禍において事業を伸ばした業態もあります。印刷通販などもそのひとつです。一方で、地方の印刷会社は大都市部と比べ、刷版の出荷量からコロナ禍からの回復が遅れていることが推測できます。印刷関連企業を個々に見ると、大きな温度差があり、それが今後の課題になってくると感じています。
そのような中で当社は、主軸の刷版事業において無処理化を推進し、2022年に発売した無処理プレート「SUPERIA ZX」の拡販が順調に推移しました。昨年は、アフターコロナにおいて仕事内容やその流れが大きく変わる中で、多くの印刷会社が新たな取り組みに一歩足を踏み出した年だったように思います。そのような背景からも「刷版の無処理化」は一気に進み、現在、当社のプレート出荷量における無処理化率は約4割となっています。フィルムセッターやCTPの黎明期もそうでしたが、採用率が一定の割合を超えると、その後一気に導入が加速する傾向があります。今年、そのような動きが見られるのではないでしょうか。
ただ、無処理化する意義は各社で異なります。私は必ずしも無処理化率100%の実現が業界にとって最善だとは思っていません。仕事内容によっては有処理版がベストの場合もあります。そこにメーカーの論理で無処理化を押しつけるのはおかしな話です。当社では今年から新中期経営計画がスタートするにあたり、お客様個々の状況も踏まえ、無処理化率の目標値を検討しています。
スモールスタートで「最適生産」
FFGSでは、印刷DXを核としたソリューションを一昨年のpage展から展開し、その表現や内容を進化させながら、現在では「最適生産ソリューション」というブランドのもとで啓発活動を推進しています。
「最適生産ソリューション」とは、オフセットとデジタルの共存運用による効率化から生み出された「余力」を、再分配するという考え方にもとづいた「印刷経営の新たなメソッド」ですが、「非常に規模の大きな取り組み」というイメージを与えたことで、正直、お客様と距離感があったことは否めません。
そこで昨年から「深く寄り添う」というスタンスのもとで、スモールスタートによる「取り組みやすく、導入しやすい提案」を意識してきました。その結果として、「最適生産」あるいは「DX」に対するお客様の関心は非常に高まっていることを肌身で感じています。
現在、各地域の中堅規模のお客様20社程度をピックアップさせていただき、一社一社担当者が訪問してカウンセリングを行っています。これは、受注から印刷、加工、発送まで、仕事全体の流れを我々が調査した上で、お客様の具体的な困り事をヒヤリングしながら診断し、具体的な施策を提案書にまとめて提出するというもの。そこで提案するソリューションはあくまでも「スモールスタート」です。現在、20社の内の1/3の診断を終えており、「相談して良かった」という多くの声をいただいています。
デジタル印刷分野で新たな価値創出の動き
当社は昨年4月1日付けで、サービス子会社である富士フイルムGSテクノ(株)を吸収合併するとともに、同日付けで社名を「富士フイルムグラフィックソリューションズ株式会社」に変更しました。これは、保守・修理等の各種サポートを含め、一層幅広いソリューションをより最適な形で提案し、顧客ニーズに応えていくことを目的としたものです。言い換えれば、「刷版一本足からの脱却」です。お客様の困りごとに「深く寄り添う」。そのためにも全社員の意識を変える必要がありました。その取り組みも徐々に実を結び、今年からはさらに目に見える形で成果が出てくると確信しています。
この経営改革において、肝となるのがデジタル印刷ソリューションです。昨年も、枚葉インクジェットプレス「Jet Press」および乾式トナーPOD「Revoria Pressシリーズ」の販売は好調で、とくに「Revoria Press」は大幅に売上を伸ばしました。
一方で、同市場での競争は激化していますが、我々は価格競争に踏み入ることなく、「値段以上の価値」を提供していると自負しています。「Revoria Press」は、我々の印刷業界との強い関係の中から洗い出されたニーズをもとに開発されたもので、優れた品質と機能を評価いただき、導入が加速しています。
さらに、IGAS2022で技術発表した、乾式トナー技術を採用した世界初のB2サイズ枚葉デジタルプレス「Revoria Press B2(仮称)」の発売に向けた開発も最終段階にあります。今年は、デジタル印刷機、とくに乾式トナーPODのラインアップを充実させていきたいと考えており、着々とその準備を進めています。
デジタル印刷機を導入するお客様は、基本的に小ロット・短納期の仕事をデジタル印刷機に回して、逆にオフセット印刷の非効率を是正することで全体効率を高めていくという考え方で導入されているケースがかなり増えています。ただ、やはりジョブ全体の量が増えないとデジタル印刷のビジネスは全体的な底上げが難しい。私は今後、この小ロットジョブの受注を、お客様が積極的に取りに行く戦略、あるいは自らその仕事を創出するような取り組みが加速し、国内におけるデジタル印刷機の稼働もかなり伸びてくように感じています。
実際、印刷という枠組みだけに留まらず、もう少し上流のブランドオーナーの領域までアプローチし、企画から受注するような動きも多々見受けられるようになりました。そんな動きが加速度的に増えることを切に願っています。
デジタル媒体への移行という戦略もありますが、一方では、DMの開封率はデジタルに対して圧倒的に優位です。こういうデジタル印刷活用の視点にも目が向けられています。また、新たな視点で自社の印刷物の価値を高めていこうという取り組みも見られます。2024年は、まさにこのあたりの需要を喚起する形で提案していきたいと考えています。
drupaはデジタルプレス中心に
今年5月末から開催される「drupa2024」について、現在の段階で詳細をお話しすることはできませんが、やはり中心はデジタル印刷機になります。デジタルプレス分野における富士フイルムのアドバンテージのひとつが幅広いラインアップです。乾式トナー、インクジェットに加え、軟包装系も導入実績があります。「Revoria Press B2(仮称)」もさらにブラッシュされた形で何らかのアナウンスがあるでしょう。
前述のように、乾式トナー系の商品力を強化していくなかで、コンセプト発表というよりは、より実用段階に入った製品群の出品がメインになり、drupaにおいても、よりリアルに体感いただける内容になるでしょう。
さらに、drupa2016年では、富士フイルムグループが持つ高度な技術を結集した「FUJIFILM Inkjet Technology」として、「インクジェットヘッド」「インク」「画像処理」といった最先端技術と、その可能性を示す多様なサンプルを展示。各種基材へのインクジェット技術の適用拡大、デジタルプリントの領域拡大の可能性を紹介し、新たなビジネス戦略へのヒントを提示しました。今回も、このような「印刷の未来」を想像させるような展示にも期待しています。
お客様と「共創の関係」を
ここで改めて強調しておきたいのは、「最適生産ソリューション」の前提にあるのは、我々が提案する「Revoria Press」がクライアントにも納得いただけるだけの「品質」と「実力」を持っているということです。ここを改めて訴求する必要性も感じています。
過去3年間、概念や理論が先行してきた「最適生産ソリューション」ですが、今年はより生産現場側に向けて「Revoria Press」の品質や性能を訴求し、「だからこそ最適生産が実現可能なのである」ということも伝えていきたいと思います。
また当社では、品質の「見える化」から維持管理まで、印刷現場の課題解決をきめ細かくサポートする「GA Smile Navi」をはじめ、様々なサポートメニューもラインアップしています。設備提案だけでなく、それを維持する、あるいは効率運用するためのコンサルティング的な活動も新たな枠組みで提案していきたいと考えています。
さらに、昨年4月からはサービス部門を統合し、保守・修理等の各種サポート体制もかなり強化されています。今年は、これらの体制も含め、富士フイルムの「総合力」を改めて発信していきたいと考えています。
我々のビジネスにおける「最適生産ソリューション」の最大の価値は、お客様との関係強化にあります。「深く寄り添う」という言葉の真意もそこにあります。何らかの課題が生じた段階で「富士フイルムに相談しよう」と思っていただける存在になりたい。我々が今もっとも取り組むべきことは、このような「共創の関係」を築いていくことだと考えています。
