丸信、シール印刷特有の複雑な製版作業の自動化に挑戦
圧倒的な効率化を実現〜PACK NEOによる運用開始
オペレータの心理的負担の軽減へ
その同社が今回、「PACK NEO」を導入した理由について米倉氏は「製版工程は知見の必要な作業が多くヒューマンエラーが発生してしまうこともあり、オペレータの心理的負担となっていた。それを解決するには、完璧な検査体制を整えるか、ミスが起こらないような仕組みを構築するか等の対応が必要と考えていた。SCREENから提案されたPACK NEOは、ミスの起こらない仕組みを構築できる可能性を感じた」と説明する。

導入以前の同社では、製版工程でラベル印刷特有のトラップ処理、丁付け(面付け)、印刷・加工用のアクセサリの配置印刷機のシリンダーに合わせた縮小などをイラストレーターによる手作業で行っていた。多種多様な印刷機を保有していることは同社の強みであるが、制作部門では、それに合わせて適切な製版作業が必須となり、オペレータの作業負荷と膨大な時間がかかっていた。
「シール印刷の場合、加工の工程により、納品時の巻出し方向が異なる。印刷機・加工の仕様に合わせて天地や左右の面付け、データの配置方向の決定が求められる。さらに平圧機は縮小の必要がないが、間欠機では印刷の流れ方向に一定の縮小率でのデータ処理が必要となる。また、輪転機においても同様で、シリンダーごとに最適な縮小率での刷版の作成作業が求められる。作業指示書で確認しながら手作業を行うが、一日に50件以上の受注案件をこなすと勘違いなどにより、間違ったデータ処理を行ってしまうこともある。作業負荷に加え、ヒューマンエラーによるミスの発生は、オペレータの心理的負担を増幅させる。これを無くしたいという思いからPACK NEOの導入を会社に進言した」
その結果、同社は2021年10月、「PACK NEO」による自動化運用を開始した。
効率化と安心感のある作業環境を構築
同社が導入した「PACK NEO」とは、商業印刷分野でSCREEN製のソリューションプラットフォーム「EQUIOS」を中核とした多くの効率化事例を構築してきたノウハウを生かし、パッケージ印刷分野での効率化を実現するためのコンセプト。パッケージ業界特有の各種処理を分析し、自動化・標準化・省力化の観点から最適なソリューションをマルチベンダーの製品で構築・提案するもの。
今回、同社が採用した「PACK NEO」は、SCREEN製の「EQUIOS」、「デジタルコンテンツファクトリーE2E(DCF)」、で構成されており、丁付け、印刷・加工用アクセサリ配置、縮小の自動化運用を構築している。
運用開始後は、製版処理に必要な流れ方向や縮小率などの情報を基幹システムからCSVデータとして書き出し、専用のインプットフォルダーに単面のPDFを入れれば、DCFが最適な設定を導き出し、間違えのない製版処理が行われる。従来は、正しく製版データができているかチェックが必要だったが、その時間を別の作業に回すことができるようになった。実際に「PACK NEO」による自動化運用開始後は、流れ方向や縮小率の間違いなどは一切発生していないという。
また同社は、多くのセクションで女性社員が活躍している。産休による長期離脱などは、知見を必要とする製版工程では、パフォーマンスダウンに繋がる。製版処理の知見をサポートする「PACK NEO」は、実務経験の浅いメンバーや部内で他業務を担当しているメンバーでも多能工化を実現でき、ワークライフバランスの取れた働き方を実現する上でも欠かせないシステムになっている。
米倉氏は、「PACK NEO」による製版作業の完全自動化を目指す一方で、スキルレス化によるオペレータの技術力の格差を懸念している。
「トラブル発生時に手動での対応ができなくなる恐れもある。そのためにPACK NEOによる自動化を大前提として、技術力や知識が劣化しないような運用が必要だと考えている」
現在、同社の製版課には、技術、知識を有するスタッフが在籍しているが、自動化運用後もアナログ作業を併用することで、製版技術の継承への対応を実践している。また、余談ではあるが同社では、以前から製版後の費用を計算・集計し、次工程に送っていたが、PACK NEO導入後は、その費用計算の実績値も自動で刷版の余白に出力されるようになり作業費用の計算・集計作業も一切なくなったという。
「地味な作業かもしれないが、この機能が搭載されたことは、私を含めオペレータは、非常に感謝している」
このように導入する各社の要望に応じた細かなカスタマイズができることも「PACK NEO」の強みの1つだ。
短納期への対応力が格段に向上
製版工程の自動化により、作業の効率化を実現した同社であるが、ある問題への対応のため現在、製版部門を含め各部門で多忙を極めているという。それは物流の2024年問題への対応だ。従来通りの納品をクライアントに提供するために、同社では、集荷の効率化を図る取り組みを実施している。当然、これにより各工程も短納期への対応が求められるが米倉氏は、「PACK NEO」の導入により、短納期対応にも自信がついたと説明する。
「以前は、予定組みの翌日に製版作業で1日の時間が充てられていたが、現在は当日の予定組みで作業指示書とデータが製版課に送られ、翌日には印刷という非常に時間がない中での作業が求められている。そういった状況では、ヒューマンエラーも起こりやすくなるが、PACK NEOの導入により、ミスなく短納期への対応ができている」
短納期対応により、残業時間の大幅短縮といった変化はないもののPACK NEO導入後は、受注案件の消化率が導入以前にくらべ、137%向上した。これにより、時間当たり加工賃が導入以前よりも168%上がるなど、自動化による作業効率の向上を確実に実現しているという。
同社ではPACK NEOの導入により、平圧機と間欠機の製版作業については、ほぼ自動化を達成している。現在は、輪転機の製版自動化に着手しており、最終的に、オフセット間欠機の自動化を推し進めていく方針だ。
