ホウユウ、堺のまちの印刷屋さん、新社屋「邦悠」竣工
観光・土産・宿泊・和体験...複合施設としてオープン
堺のまちの印刷屋さんとして四十余年の歴史を歩んできたホウユウ(株)(田中幸恵社長)は、本社機能と外部で展開していた紙カフェ事業を統合し、新社屋「邦悠(ほうゆう)」(所在地/大阪府堺市堺区綾之町東1-1-8)を竣工。4月15日にグランドオープンした。同施設では従来どおり、印刷事業を継続しながらも、観光と土産・宿泊、和体験などもできる複合施設として新事業を展開していく。田中社長は「堺のことを地元の人にもっと知ってもらい、ますます地域と一緒に盛り上がれる会社にしていきたいです」。堺を愛する企業として、堺の魅力を発信する施設を目指す。
同社は1975年11月に「邦悠(株)」として設立。以来、堺のまちの印刷屋さんとして四十余年、堺市役所・大学等の公的機関や印刷関連業者を取引先とする印刷会社として実績を積み重ねてきた。このたび複合施設としてグランドオープンした新社屋「邦悠」は、当時の社名に由来しているものだ。
新社屋の前を通る道は、関西最古の街道の1つとして知られている「紀州街道」。また、堺と大阪を結ぶ路面電車「ちんちん電車」が裏を走り、最寄り駅の「綾ノ町」からは徒歩1分のアクセスに立地している。また、南海電鉄「七道」からは徒歩10分ほどである。
この周辺地域は「環濠エリア」と呼ばれ、堺最古の市街地。中世の堺商人たちが堀を巡らし、自治都市として繁栄していた区域であるという。田中社長は、「今も江戸時代の町名と町割りが残っており、堺市の観光拠点の1つとして、移転前から多くのお客様をご案内してきた地域です」と話す。これからは町の散策にも良い季節。七道駅から同施設へと取材に向かう道すがらでは、地図を見ながら数人で町歩きする年配者のグループの姿があった。
新社屋「邦悠」は、木造3階建ての本館と2階建ての離れという造りで、建物デザインは古い町並みに合わせた昔の町屋風である。同社を知らなければ、とても印刷会社には見えない。正面外壁に取り付けられたオーク材の看板と真鍮の軒燈が目を引いている。田中社長は「地域のランドマークにしたい」と話す。
そして、290平米の敷地面積を有する同施設では、紙と堺の雑貨屋&セルフcafe&レンタルスペース「紙cafe」、着物で堺体験や宿泊を楽しめる「知輪-chirin-」、そして「堺のまちの印刷屋さん ホウユウ(株)」が統合した複合施設として、従来の印刷事業とともに、新しいスタイルの事業をスタートしている。
堺の文化・歴史を発信する施設に
今回、10年間にわたって堺最古の商店街・山之口商店街で運営してきた「紙cafe」を1階の入口付近に移転。「紙cafe」は、今では印刷のアンテナショップの枠を飛び出し、堺の文化や歴史を発信する「堺愛」に満ちた店舗として、地元企業や地域住民から親しまれている。このような地域密着型のショップをオープンしたきっかけとこれまでの道のりについて、田中社長は当時を振り返っている。
「一番のルーツになったのは、『印刷屋さんのペーパーフリーマーケット』という、余り紙を利用した雑貨や紙のワークショップを提供するイベントでした。その時に初めてエンドユーザーへの直売、つまり『小売り』を経験した私たちは、常設できる店舗が欲しくなりました。そして、翌年に立ち上げたお店が『紙cafe』です。当初は印刷のアンテナショップの予定でしたが、立地が堺で最古の商店街ということもあり、次第に地域の町おこしやコミュニティ活性化を担うことになっていきました」
「紙cafe」では、10年の間に様々な事業に挑戦。「ペーパーフリマ」「堺古墳祭り」などのイベント開催、地域の名所・伝統工芸品をアイコンにした「堺柄(さかいがら)」の考案、さらに、それを使った雑貨ブランド開発や、世界遺産登録された百舌鳥・古市古墳群のお土産品開発などである。
そして、これにともない、受注する仕事内容も変化。地元自治体の印刷や、WEB・グッズ・イベントなど、とくに地域をアピールする観光系や、古墳を中心とした歴史・文化に関係する仕事が入ってくるようになった。
「これらは当社の『堺大好き!』が存分に活かせる仕事です。そして、その仕事を見た地元企業にも少しずつ浸透してきています。これまで、お客様の90%以上が同業他社様からのお仕事だったことを考えれば大きい数字ではありませんが、このような地域と一緒に盛り上がれる仕事は着実に増えてきています」(田中社長)
そして、「紙cafe」の店舗の奥には、ワンドリンク(330円)制のセルフカフェを用意。地域住民や、散策に疲れたら休憩できるスペースとなっている。
「実は、この地域の昔からの悩みは、周辺に飲食店や休憩所が無いことでした。そこで、無人の貸しスペースを兼ねたカフェを作り、地域や観光で訪れる人たちが集まれる『場』を提供することにしました」(田中社長)
また、セルフカフェの奥には和室の個室も用意。畳のヘリは「古墳」の模様となっており、同社の堺へのこだわりと愛情が伝わってくる。セルフカフェの横には、同社の開発品である「もずふるサブレ」の食品プリンターを設置する通称「サブレ部屋」を設置。ガラス張りで作業が見えるようになっており、「サブレのプリント・包装作業をお客様にも見ていただけるようにしています」(田中社長)。ここが印刷会社の施設であることを思い出させてくれるスペースとなっている。