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「働き方を変える機械」〜「サービス」の重要性

機械のライフサイクル提案
ミューラー・マルティニジャパン 代表取締役専務 五反田 隆 氏

 ミューラー・マルティニジャパン(株)の代表取締役専務に、元取締役営業技術部長の五反田隆氏が2018年1月1日付けで就任した。五反田氏は、岐路に立つ印刷製本産業において、「働き方を変える機械」という視点から機械づくりを考えるべき時がきていると指摘する。また、総合サービスパッケージ「MMサービス」を中心とした機械の保全計画、部品交換、メンテナンスを実施することで、「ライフサイクル」という視点による設備投資を提案している。


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五反田 代表


─新社長就任に際し、まず現在の心境をお聞かせ下さい。

五反田 印刷製本産業は現在岐路に立っており、近々重要な転換点を迎えると考えている。このような時期に代表として会社経営にあたる不安は確かにある。しかし一方で、転換点だからこそ新たなチャレンジの可能性もあり、少しワクワクしている部分もある。「不安半分、期待半分」というところである。

 ミューラー・マルティニ社はポストプレス機器の世界的なマーケットリーダーで、日本でも40年以上にわたり機器を販売してきた。ある意味「トップを走り続けなければいけない」という宿命を背負っていることもあるため、いまその重責を痛感している。

 ミューラー・マルティニグループとしても、日本は重要な市場として位置付けられている。日本は品質要求などの面でも特殊な市場だが、逆に言うと、日本で受け入れられる機械は、世界のどこでも通用するということ。当社の製品開発においても重要な役割を担う日本市場での舵取り役を任されたことで、身が引き締まる思いである。

─五反田社長ご自身、日本の印刷製本産業の現状や課題をどう捉えていますか。

五反田 さきほども触れたように、大きな転換点を迎えようとしている印刷製本産業だが、残念ながら市場は成熟し、世の中ではIoTなどが進展する一方で、同業界は労働集約型から抜け切れていない。これらは長時間労働や労働環境の悪化を招き、若者が就職する業界としての魅力は薄いと言わざるを得ない。これは様々な面で産業にとって大きな課題である。いま、「後継者」「若い人材の雇用」の両面で業界全体が真剣に考えるべき時が来ているように思う。機械メーカーもこの視点から機械づくりを考えなければならない。いわゆる「働き方を変える機械」である。労働集約型の印刷製本産業に対して、我々はさらなる自動化、高精度なセット機能を提供する必要があり、これまでの「高速で効率良く生産する」という視点もゼロではないが、どちらかというと「スキルレス化」というニーズへの比重が高まってくるだろう。

─長年、技術部門に関わられてきた五反田社長ですが、トップの舵取り役としてどのような「色」を出していこうと思われますか。

五反田 2001年に当社へ入社し、およそ1年の営業職を経て、その後は12年間にわたってサービスに携わってきた。前職では設計もやっていたが、技術サービス部というフィールド部隊を率いるのは初めてだった。

 言うまでもなく、機械販売と充実したサービスがセットになって初めてお客様は満足を得る。この中身の傾向が若干変わってきている。10〜15年前だと、まず機械販売ありきで、その次にサービスが付いてきた。しかし最近は「機械の寿命を伸ばす」という視点が重要視され、そのためサービスへの比重が高まっている。

 機械がバンバン売れる時代ではない。良くて入れ替え、悪くて2台を1台に集約する程度。そうなると「機械を長く使う」というニーズが増え、そのためのサービスが重要になってくる。ここ2〜3年はその傾向がすごく顕著だ。

 ミューラー・マルティニ社は、約6年前に総合サービスパッケージ「MMサービス」を立ち上げ、新規や更新時の技術提案のみならず、稼働後の長期にわたる保全計画をユーザーとともに検討して実施し、長期にわたる安定稼働を支援することで、投資リスクを低減する取り組みに注力してきた。

 とくに最近ではオーバーホールの需要も増えている。当社の機械は堅牢性が高く、基本的にライフサイクルは長い。あと、部品交換やメンテナンスを実施することで、機械が壊れる前に機能を回復させながら長く使用することができ、そうすると機械の価値は高まる。このように最近では機械販売において「ライフサイクル」という視点で提案営業するようになってきている。

─御社の強みはどこにありますか。

五反田 ミューラー・マルティニ社の強みは、総合的なポストプレス機器のポートフォリオを持つこと、世界標準で戦っていること、そしてデジタル印刷対応が進んでいることの3つ。とくにデジタル製本システム「シグマライン」を発表してから8年以上が経ち、その間、全世界で50台以上を納入。米国を中心にデジタル印刷とポストプレスの連結で新しい市場創出を後押ししてきた。

 そして、具体的な開発コンセプトには、自動化・接続性・可変・タッチレスという4つのキーワードを掲げている。このコンセプトは、drupa2016でも明確に打ち出されたが、デジタル印刷技術がビジネスとして成立しているケースがまだ少ない日本市場での反応はスローである。デジタル印刷の流れは止まらない。岐路に立つ日本の印刷製本産業において、一気にデジタル印刷の普及が加速したときに対応できる準備をしておく必要性を訴えている。我々はワールドワイドでの経験を通じて、「ビジネスになるデジタル印刷運用」をサポートできると思っている。

─今年の具体的な取り組みについてお聞かせ下さい。

五反田 ミッドレンジの無線綴じ機「アレグロ」、および中綴じ機「プリメーラMC」という大きな柱のほか、それほど多くはないが確実に毎年納入している全自動糸かがり機「ベンチュラMC」などがある。これら主力機については、デジタル化対応するときに、少ない投資で段階的にでも追加オプションで対応できるデジタル化対応アップグレードのオプション、もしくはその準備を付加した形で訴求してきたい。

 今年中にデジタル印刷が爆発的に伸びるということは、現段階では考えにくい。現在20インチのデジタル印刷の普及は著しい。その後加工を真剣に考える時期が今年で、デジタル印刷と製本がセットになって投資されるようになるのはもう1年先、2019年になると見ている。今年はまだ助走期間になるだろう。

 この流れを見ながら7月開催のIGAS2018への出展機も検討していくことになる。drupaのようにデジタル先行でやるのか、もう少し、日本市場に絞った形で訴求していくのか。正直なところ、前者は時期尚早のように思う。ただ一方で、リーディングカンパニーとして先進的で夢のある技術・製品を出品していくのもミューラー・マルティニの使命なのかもしれない。

─ご自身の性格を自己分析して下さい。

五反田 比較的明るい方だと思う。人と会って話すのも好き。趣味は旅行。学生時代から知らない街を訪ねて新しい発見に出会うのが好きである。行動的な方で、2日間の休みがあって2日とも家にいることはまずない。運動としてはたまにテニスをする。お酒も嫌いではない。

 仕事では、「案ずるより産むが易し」。とりあえずやってみようというタイプ。失敗してもそこに次のアイデアがあるはずだ。

─最後に、印刷製本関連業界に向けたメッセージをお願いします。

五反田 まず、印刷製本産業において快適な労働環境を作り出す必要がある。ボタンを押せばきちんと回って、正確に素早く生産できる機械があれば、それは、まさに「働き方改革」につながる。そんな喜んでオペレータが使ってくれる機械を作って、若い人が「働きたい」と思う、感性に訴える産業、魅力ある産業にしていくお手伝いができればと考えている。


【五反田隆(ごたんだ たかし)】

1957年生れ、59歳
1980年:九州大学工学部卒
2001年:ミューラー・マルティニ ジャパン(株)入社
2003年:同社技術サービス部長
2013年:同社営業技術部長
2018年1月1日:代表取締役に就任