【対談】アズーラ速乾印刷で実現する印刷会社のダイバーシティ
佐川印刷・佐川正純社長 × アグフア・岡本勝弘マーケティング本部長
速乾とパウダーレス化は「印刷維新」
岡本 当社の現像レスCTPプレート「アズーラ」が今回のダイバーシティ実現や働き方の改革に貢献したというのは大変ありがたいことです。佐川印刷様は業界に先駆けて現像レスプレートを採用しておられましたが、当初使用されていた現像レスプレートで解決できなかった課題をアズーラではどのように解決し、今回の受賞を実現できたのか教えていただけますでしょうか。
佐川 当初使用していた現像レスプレートで「強アルカリ現像をなくす」という製版プロセスの改善はできたものの、印刷環境の改善まではできませんでした。当時の印刷環境は多くの水を使い、インキの乾燥性も高くなく、使用するパウダー量も非常に多かったです。ここが私の解決したい課題でした。アズーラは強アルカリ現像がいらないだけでなく、その特殊な砂目構造で実現できる速乾印刷が非常に魅力的でした。ここが採用の一番のポイントです。
アズーラでの速乾印刷によるパウダーレス印刷を実現したことは城で言う「土台の石垣」の部分だと思っております。JDFワークフローでいかに受注・生産管理を実現し、最新の断裁機を導入しても肝心の印刷物が乾いていなければ、後工程に影響し、生産効率の向上は期待できません。アズーラによる速乾印刷が実現できているからこそ、JDF運用を最大限に活用することができたと思っています。アズーラを使い、速乾印刷に取り組むことは、現像液の管理、CMS、乾燥不良というあらゆる問題から解放されることになり、しかも印刷の原理原則を見直し、社内の働き方改革を実現するきっかけのひとつになりました。
岡本 アズーラはその特殊な砂目構造から水を絞って印刷できます。結果的に乾燥性が高くなり、印刷後のプロセスの効率化にもつながるということですね。アズーラは水を絞れる反面、ときに汚れやすいというお言葉をいただくこともあります。しかし、佐川印刷様ではそのようなお言葉はなく、難なく速乾印刷を実現されていらっしゃいます。アズーラの性能を最大限に引き出す佐川印刷様の印刷技術も非常にすばらしいと感じます。
佐川 アズーラは一般的なプレートと比べて水幅が狭いのは事実です。ですので、一般的なプレートに慣れてしまった人には初めは刷りにくいプレートかもしれません。しかし、高い印刷技術を持つオペレーターから見れば、アズーラは水を極限まで絞った究極の速乾印刷を実現することができるプレートだと思います。当社の目指す通常のオフセット印刷における速乾とパウダーレス化は印刷の古い常識を覆す「印刷維新」だと考えます。当社は「印刷維新」を実現するために印刷設備の定期的なメンテナンスはもちろんのこと、様々な社内の改善活動で印刷の原理原則に立ち戻った技術向上を図っています。そのことをアズーラは気づかせてくれました。
ダイバーシティには「風土の醸成」
岡本 アズーラの性能を最大限に引き出すには、今までの印刷機のオペレーションに関する考え方を変える必要があると思っております。今まで長年行ってきた印刷手法、環境を変えることを嫌がられる印刷会社は多くありますが、アズーラに適した印刷手法、環境の構築は速乾印刷実現ばかりでなく、まさにそのままで理想的なオフセット印刷を実現することになります。御社は印刷技術を貪欲に追求され、アズーラの性能を最大限に引き出すことで速乾印刷を実現されていらっしゃると思います。
ところで、御社は女性社員も積極的に登用されています。印刷・断裁現場では男性が担当されているイメージがありましたが、実際に断裁作業も女性社員の方が担当されているのには驚きました。
佐川 当社では断裁作業を含む後加工を女性のパート社員が行っています。これはこれまでの印刷会社の常識を打ち壊したと言われています。これまでの後加工現場は印刷工程でパウダーを降ってしまうと加工機械はもちろん、床や制服はパウダーまみれになってしまい、清掃に時間がたくさん取られていました。それがアズーラでパウダーレス印刷を実現したことによって、このような汚れがなくなり、無駄な清掃時間がなくなったため綺麗なところをさらに磨く状態になりました。事実、当社の後加工現場の床は輝いています。また、印刷後の印刷物もスケジュール通り乾燥してくるので、スケジュール通り後加工をすることが可能です。家庭で家事を担っている人が多い女性パート社員の方にも無理なく働くことができるようになりました。乾燥時間という管理が難しい無駄な待ち時間がなくなったと言うことです。アズーラ速乾印刷は現場の働く環境を改善し、女性登用に大きく貢献しました。
岡本 まさに多様な人材がそれぞれにあった働き方ができる職場づくりが実現しているわけですね。アズーラ速乾印刷が印刷会社のダイバーシティ対応に貢献するという理由がよく理解できました。
今後、ダイバーシティ実現を目指す印刷会社は多いかと思いますが、なかなか古い慣習が抜けず、実現できないという声も聞くことがあります。実現に向けて何か大事にされていることはありますか?
佐川 まず何より「風土の醸成」が大切だと思います。どの企業でもダイバーシティの実現で立ちはだかる問題というのは女性がライフステージの変化によってキャリアを失ってしまうこと。また、制度を導入してもなかなか浸透していかないということだと思います。当社がこのように働き方の改革が進み、ダイバーシティが浸透しているのも「ヒューマンステージ」という社員同士の共通認識があったからだと思います。
「ヒューマンステージ」は当社の経営理念のひとつとして謳われているもので、社員同士の関わりの基礎を築くものです。この「ヒューマンステージ」をベースとして我々はどうすれば実現可能か維持できるかなどについて、両立支援を必要とする社員だけでなく経営者や現場の関係者など様々な視点で考え抜き、互いを大切にしていく風土を醸成してきました。
そして、ベースとなるヒューマンステージの上で多種多様な人材が活躍できる環境整備を印刷会社としてどのように実現していくかが重要だと思います。環境整備にあたりシステム構築やアズーラなどの資材の選定は非常に重要な要素だと考えます。
岡本 当事者だけでなく、会社全体で解決策を考えて、取り組むことが大事ということですね。佐川社長の取り組まれているIT技術による各工程の見える化は、風土の醸成にあたっての大きなポイントとなりますね。
アズーラによる印刷現場環境でのダイバーシティの実現は我々も今回非常に勉強になりました。アズーラの高い印刷性能をうまく経営に反映した素晴らしい事例だと思います。
佐川 現在、当社ではそれぞれの部署が自部門の取り組みをプレゼンテーションができるように指導しています。例えば工場では「工場の誇りを佐川の誇りに」をスローガンに「パウダーまみれだった工場がアズーラ速乾印刷に取り組み、パウダーレスを実現できたことが工場のプライドを育んできた。それを佐川全体の誇りにつなげて欲しい」。こういった部署の取り組みを自分で紹介すること、他部署の取り組み、課題や努力を知ることで、一体感が生まれますし、新しい目線で物事を考える力もつきます。社員全員が「いつもの事をいつも通りきちんとやる」、それだけで満足せずにさらなる高みを目指すことが大事だと考えています。
我々は富士山ではなくエベレストを目指す。ただその足取りは1歩1歩ですが、そこにまた学びがあります。