富士フイルムグラフィックソリューションズ(株)(山田周一郎社長、以下「FFGS」)は今年6月、西麻布にあるショールームをデジタル印刷に特化した「課題解決の検証の場」としてフルリニューアルし、新名称「Solution Design Lab.(略称SDL)」(東京都港区西麻布2-26-30 富士フイルム西麻布ビル)として運用を開始している。今回、同ショールームを訪れ、そのコンセプトや展示内容について取材した。
最上位機種の「Revoria Press PC1120」(手前、6色機)とミッドレンジの「Revoria Press EC1100」(4色機)
POD用途拡大で、加工適性含めた課題検証がより重要に
今年6月末に開かれたSDLのお披露目の場で挨拶に立った山田社長は、「紙媒体の小ロット多品種化、さらに人手不足が加わり、これら生産手段の対応としてデジタルプレスの導入が加速している。富士フイルムは、インクジェット、乾式トナー、それぞれのデジタルプレスをラインアップし、今後も拡充していく」とした上で、「これら製品サービスにおいて、お客様が実際のビジネスに活用できるかどうかを検証できる場として西麻布ショールームをリニューアルした」と説明し、デジタル印刷における課題解決の「検証の場」としての活用を促している。
西麻布のショールームは、これまでも実機展示による様々なソリューション提案の場として機能してきたが、とくにFFGSがデジタル印刷分野に注力する中で、顧客のPOD投資に対する判断材料を、さらに具体的な形で提供する必要があったという。
これについて技術二部の大橋彰担当課長は、「PODのスペック情報はWebから入手できる。それ以上に、後加工を含めたデジタル印刷ソリューションをより具体的なイメージとして提示する必要性を感じていた。そしてこの接点を通じてお客様が抱える課題をじっくりとお聞きし、設備導入までの技術課題を『検証・実証』によってクリアにする場としてSDLを機能させていく」と説明する。
コンセプトは「発見」と「検証」
POD機は、もはや印刷産業では周知のデバイスと言えるが、当初から続く「対オフセット品質」の議論の中で、未だに誤解されている部分もある。
「PODデバイスは著しく進化し、いまでは様々なメディアに高品質で印字できるようになったことで、その用途は大きく広がっている。事業領域の拡大を模索する印刷会社にとって、厚紙、パッケージ、DM、クリアフィルムなどの小ロットジョブを後加工まで含めたPODの設備で、『本当に仕事として成立させることができるのか』ということが新しい関心事になっている。PODデバイスの性能が向上したことによって、加工適性を含めた評価や課題検証がより必要になってきた」(大橋課長)
一方、仕事がコロナ前の7〜8割程度しか戻っていない現状において、「設備更新は必要だが、償却に不安がある」という相談も多い。これに対し、デジタルソリューション営業部の佐藤伸之主任は「当社のPOD機はスペックの数字では表せない能力がある。例えば外注していた仕事や新規商材に対し、1台で2役3役できれば、コロナで失った2〜3割の仕事をカバーできる。SDLは、このような各社の現状に応じた投資の検証および実証を行う場として設計されている」と説明する。
大橋課長(左)と佐藤主任
営業部門の来場が全体の4割
SDL西麻布のコンセプトは「発見」と「検証」。「発見」については、「実際に機械を『見て』『触れて』、お客様の声を『聴いて』、お客様に『寄り添って』、潜在ニーズを見つけ出すこと」をひとつのコンセプトとしている。
さらに「検証」については、今回新たな試みとして「デジタル印刷のコンシェルジュサービス」を実施している。印刷を知り尽くしたコンシェルジュを配置し、データ入稿から印刷、後加工の実践デモ、デジタル印刷のメリットを体験検証できるサービスとして展開していく考えだ。
オープンからおよそ5ヵ月。実際の運用では、印刷会社の営業部門の来場が全体の約4割を占めているという。
「従来は、製造部門のオペレータなどが多かったが、SDLには営業部門の方々の来場が多い。『クライアントからの要望でやむを得ず外注を強いられているジョブをどれくらい自社に取り込めるか』、そんな視点での相談が増えている。商印の会社ならば紙器パッケージやシールラベルなど。成果物までの加工を含めたビジネスのイメージをリアルに掴めるということで好評だ」(佐藤主任)
小ロット紙器パッケージの印刷加工サンプル
また、大橋課長も「機械を見に来るのではなく、クライアントの要望実現に向けた相談が多い」と語る。
「印刷会社では、PODでできることはある程度イメージできているものの、実際のビジネスに落とし込むところで苦労している。SDLでは、実際の導入事例や具体的なサンプルを提示し、その加工方法までを説明することで、新事業を模索する印刷会社の背中を押すことができ、顧客の潜在的な要望を顕在化することもできる。ここがひとつの『発見』に繋がると考える」(大橋課長)
一方、デジタル特化のSDLを、オフセット印刷のリテラシーおよび顧客基盤を持つFFGSが展開することにも大きな意味がある。PODを起点とした相談やディスカッションの中で、オフセットとのカラーマネージメントの話、あるいは印刷診断の話にまで至るケースも多い。佐藤主任も「オフセットを知るFFGSが行うデジタル印刷の提案に大きな優位性がある」とし、「当社にとってSDLは、お客様の困り事や課題を発見するマーケティング的な機能もある。当社が持つ分野別ソリューションへ、あるいは将来のソリューションへと繋げるための橋渡しの場でもある」と説明する。
Revoria Press2機種を設置
現在、SDL(420平米)に設置されているプリンターは、最上位機種であるプロダクションカラープリンター「Revoria Press PC1120」(6色機)と、ミッドレンジのプロダクションカラープリンター「同EC1100」(4色機)。これらで出力された豊富なサンプルも展示されている。
さらに、後加工機としては、トヨテック社のA2カッティングプロッター「DG-4060Ⅱpulus」やホリゾン製折り機「PF-40L」のほか、浜松製作所製圧着機「HPL型」が設置されている。カッティングプロッターはシールラベルを想定して設置されたものだが、イベント対応のための小ロット紙器パッケージの加工としても関心が高く、コスメやスイーツなどのコラボやシーズンイベントの需要も顕在化している。
設置されている加工機(奥:カッティングプロッター「DG-4060Ⅱpulus」、手前右:折り機「PF-40L」、手前左:圧着機「HPL型」)
一方、圧着機はRevoria Press PC1120の「圧着トナー」の加工機として設置されている。「圧着トナー」のリリース当初は、DMを想定したプロモーションを推進したが、現在、その裾野が広がっており、「スクラッチくじ」の代用としての「めくりくじ」などで需要が高まっているという。
SDLでは、これらの設備でひとりのオペレータが印刷から加工までを行い、成果物にするまでを体感できる。もちろん実際の仕事で使用したオフセット印刷のデータや外注ジョブのデータなどを持ち込んでテストすることも可能だ。
その他、ワークフロー関連ではXMFシリーズをはじめ、デジタル印刷工程を一括管理するソフトウェア「Revoria XMF PressReady」、ジョブプランニング・面付けソフトウェア「phoenix」、Form Magic、さらに総合カラーマネージメントソリューション「FFGS QC Navi」などのデモ環境も整っている。
イベントを随時開催
FFGSでは今後、ベンダー・メーカーの協力を得ながら、イベントやフェアを随時開催していく考えで、その都度、設置機器も更新していく。
「12月4~6日には出力から後加工工程を含む、最新のPOD機活用をご紹介するイベントを開催した。期間中、無線綴じ機による書籍制作デモも実施し、当社のPOD機の連続印刷時の安定性と品質を、一冊の本に仕上げる工程を通じてご覧いただいた」(佐藤主任)
また、VR技術を使ってSDLを見学できるような体制も準備中とのこと。
現在、FFGSが展開するデジタル印刷のショールームは、このSDL西麻布とJetPress Square辰巳の2ヵ所。両ショールームを中心にデジタル印刷の検証の場を提供していくが、これら以外のエリアでもコンシェルジュがフォローし、全国拠点で同様のサービスを提供していく考えだ。